「総合取引所」は日本経済蘇生の起爆剤になるか 「外圧」が突き動かしてきた日本の大転換

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最近の英国調査会社による世界取引所ブランド価値ランキング調査によれば、1位米CMEグループ(18.5億ドル)、2位香港取引所(14.1億ドル)、3位米NYSE(13.5億ドル)、4位米ICE(10.5億ドル)、5位米ナスダック(9.26億ドル)と続き、10位シンガポールSGX、そして日本JPXは12位だった。

ブランド価値とは、「取引所が所有する知的財産権のライセンス料や、顧客や規制当局の信頼度などを基に」判断されるが、残念ながら、日本の取引所の国際的ブランド力の劣位は否めない(日経電子版、2019年2月20日)。

取引所の競争力向上への課題

そもそも日本では、取引所を梃子に国際競争力向上の戦略をという課題は、ほとんどが画餅に終わっている。先に見たように、伝統的に先物取引へは懐疑的認識(規制強化)が強かった。

したがって、証券取引所と商品取引所の統合、それに先物取引所を絡め、総合的な取引所設立による国際競争力戦略という認識そのものが、内発的に醸成されることはなかった。

とはいえ、ここにきて、取引所の国境を越えた統合再編ぶりは実に目まぐるしく、アジアでも中国、香港、韓国、シンガポールといった急速に進展する先物(株式から穀物や金や原油まで)を含めた総合取引所化という現実を前に、最早、座して構える余裕はなくなったという日本の金融当局の焦りに似た判断が、JPXと東商取の経営統合へと突き動かした、というのが実情だろう。

しかし、そこには国境を超えた国際統合・提携を見据えた戦略は見えず、あくまで国際的取引の急展開に対する日本の市場固めという色合いが濃い。

さらには、商品先物取引と言いながらも、大阪取引所と東商取の棲み分けはどうするのか、JPXを監督する金融庁と、東商取を監督する経産省・農水省との利害調整も絡む。2018年10月、金融庁は、「先物の父」と称されるレオ・メラメドCME名誉会長を参与に迎えた。

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総合取引所が実現すれば、日本経済の蘇生の牽引役となり、国際競争力を向上させる起爆剤たりうるのか、あるいは、そもそもかつての「先物元凶論」は払拭されたのかどうか。はたして、内外の投資家の呼び込みに成功し、ジャパンマネーの再興につながるのか。前途はけっして楽観視できない。

歴史的に振り返れば、日本の大転換期には、常に外的要因が主導し、それに対応する形で、国内の既存のシステム再編を突き動かしてきた。それは、明治維新や戦後改革のみならず、「失われた30年」も同じだったのである。

中尾 茂夫 明治学院大学教授

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なかお しげお / Shigeo Nakao

1954年生まれ。経済学博士。シカゴ連邦準備銀行、トロント大学、西ミシガン大学、カリフォルニア大学リバーサイド校、タイNIDA、中国人民大学、マカオ大学等で、客員研究員・客員教授を、国内ではNHKやJBIC(国際協力銀行)等の依頼による調査研究主査を務める。著書に、『ジャパンマネーの内幕』(岩波書店、第32回エコノミスト賞)、『ハイエナ資本主義』(ちくま新書)、『トライアングル資本主義』(東洋経済新報社)などがある。

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