会社と人生を狂わせる「うつの正体」 次々に襲ってくる負の感情の正体とは?
機械的診断が増やすうつ
診断マニュアルが診療を効率化した。直感頼みからは進歩だが、うつでない人までうつと診断する弊害が指摘されている。
残業に次ぐ残業で疲労困憊の鬱加茂治朗(仮名)は、外回りの途中、メンタルクリニックの看板を見掛ける。「最近うつが多いらしいな。次のアポまで時間があるし、俺も試しに入ってみるか」。
簡単な受け付けを済ませると、待合室が混んでいるにもかかわらず、なぜかすぐに診察室へと通される。
「どうされましたか」と心配そうに質問する若い医者に、治朗は「暇潰しの冷やかしです」とはさすがに言えず、「何となく気が重く、やる気も起きなくて」と答える。
「ほとんど一日中、憂鬱な感じでしょうか」。そう聞かれた治朗は、少し考えてから、「そう言われれば、そんな気がします」。
医者「ここ2週間、そんな感じでしょうか」
治朗「(2週間も前のことは覚えてないけど)多分、そうです」
その後も「食欲は?」「疲れやすい?」「眠れてないでしょ?」と矢継ぎ早の質問。言われてみれば、若い頃に比べたら食欲もないし、疲れやすいし、最近子供がうるさくてよく眠れていない。そこで、「全部そのとおりです」と答える。
医者は「DSM-Ⅳ」と書かれたマニュアル本(通称・ミニD)をパラパラめくった後、こう告げる。
「あなたは典型的なうつです。休職したほうがいいですね。会社に提出する必要があるなら、今すぐ診断書を書きますよ」
診察室に入って10分足らず。冷やかしのつもりだったのに「うつ」の診断が下された。落ち込んだ治朗はアポのことも忘れ、会社に連絡も入れずに自宅に直帰した。
以上はあくまでも機械的な診断を単純化したものだ。良心的な医者であればもっと多方面から問診し、慎重に病気を見立てるかもしれない。だが、良心的な医者ばかりではない。「精神科医の中には聞き下手が多くて、患者の話をふんふんと聞き流した後に、やおら『うつですね。2週間分の薬を出しておきます。また来てください』とぶっきらぼうに言い放つ、古典的な診療をいまだにしている医者もいる」(精神科医の斉尾武郎氏)。
DSMすら参照せず、直感を頼りとした診断をする精神科医も依然多い。そのことを考えると、マニュアルどおりのほうがまだマシという見方も成り立つ。
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