会社と人生を狂わせる「うつの正体」 次々に襲ってくる負の感情の正体とは?

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内科医も裁判官も使う便利な診断マニュアル

ここで重要なポイントは、こんな安易な診察も可能だということだ。

簡単で速い診断を可能にしたのが1980年代以降に普及した米国精神医学会のDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)である。今やデファクトスタンダード(事実上の標準)と見なされ、世界中の医者のバイブルといってよいものだ。

Ⅱ版までは遺伝や性格といった原因でうつを分類していた。このために医療の現場では、原因を探るのに手間と時間がかかった。しかしそれでは効率的な診察ができない。そこで当時の米国精神医学会は大きく舵を切る。

Ⅲ版からDSMは症状による診断に大転換した。原因はさておき、症状そのものを病名にするというわけだ。単純化して言えば、「腹が痛い」と患者が言ってきたら、「ハライタイ症ですね」と診断し、痛み止めを処方するようなものだ。

DSM-Ⅳの特徴は、症状の質問項目を一つひとつ当てはめていくと誰でも機械的に診察できる簡便さにある。

DSMはその使いやすさゆえに、精神科医以外、たとえば内科医でも患者をうつだと診断し、抗うつ薬を処方できる。それどころか、医療現場を越え、裁判実務でもDSMは使われるようになった。第一協同法律事務所の峰隆之弁護士によれば、「精神科医の参考意見が求められないまま、裁判官が『事実認定』において、DSM-Ⅳを用いてまるで医者のようにうつを診断。司法判断の根拠にする例もある」。

仕事上のミスや悪天候などが重なれば、誰でも気分が落ち込む。だが、大抵はしばらくすると元気になる。一方、うつは日常生活に支障を来すほど持続的な気分の落ち込みとされる。ここで問題は、どこまでが一過性でどこからが持続的とするかだ。

正常(憂鬱)と異常(うつ)の境は人為的で、あいまいなものだ。

DSM-Ⅳの作成委員長を務めたアレン・フランセス氏は自著『〈正常〉を救え』の中で、「うつの条件に科学的な必然性があるわけではない。どこに基準を設定するかの最終判断は主観的になる」と断言している。うつの必要条件の「2週間の持続性」という期間にも、実は客観的な合理性はない。米国精神医学会の識者がこのくらいが適当であろうと多数決で決めたものだ。

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