大津事故で見えたマスコミのミスと人々の悪意 感情論で終わらせていては本質に辿りつかない

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たとえば、あなたの周りには、電車が遅延しただけで必要以上にイライラしたり、家族や同僚の小さなミスをとがめたり、たいして嫌いではない人の悪口をわざわざ言ったり、自分が悪いことをしたにもかかわらず恋人に逆ギレする人はいないでしょうか?  これらは、ふだんさまざまなシーンで体内に悪意をため込んでいるから出てしまう言動なのです。

直接的にしろ、間接的にしろ、誰かに向けた悪意は、言い切ったからといって完全に発散したことにはなりません。瞬間的にスッキリしたような感覚があるだけで、実際は自分の体内で蓄積されていくのが怖いところ。これを理解している人は、今回のようなときにマスコミを叩こうとは思わず、子どもたちを悼み、再発防止の方法を考えるものです。

感情論を前面に出した芸能人たち

もう1点、人々の悪意を感じてしまったのは、まだ事故の全容がわかり始めた段階であるにもかかわらず、もう終わったことのような感覚になっていること。マスコミを徹底的に叩き、「♯保育士さんありがとう」とツイートしていたときの熱は失われ、再発防止に向けた議論はあまり聞こえてきません。それどころか、次のバッシング対象を探すようなコメントを発信している人さえいます。

今回の事故は悲しいものであるがゆえに、「右折の危険性」「会見のタイミングと必要性」「保育園のお散歩」「保育士の仕事」などを考えるきっかけとなっています。「悪のマスコミを攻撃して、正義の保育士をねぎらった」と溜飲を下げているだけでは、再発防止にはつながらないのは言うまでもないでしょう。

また、それらを報道すべきマスコミの姿勢にも疑問を抱かざるを得ないところがありました。テレビのワイドショーやネットメディアの多くは、事件の全容や再発防止よりも、「保育園は悪くない」という感情論を前面に出すことで注目を集めようとしていたのです。

その筆頭がワイドショーで「保育園は悪くない」と発信していた芸能人たち。すでに多くの人々がネット上に書いていたことをわざわざ断言したのはなぜでしょうか。ワイドショーの出演者たちがすべきは、「事件の全容を伝え、今後に生かそう」という姿勢であり、感情論を前面に出すという方針では「好感度アップ狙い」「視聴率第一主義」と揶揄されても仕方がないでしょう。

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