自爆テロのスリランカはインド洋に浮かぶ真珠 なぜ観光客に人気の国で250人超が死んだか
「インド洋に浮かぶ真珠」と呼ばれ、世界の観光客から人気を集めるスリランカ。その国で、イスラム過激派の仕業とみられる凄惨な自爆テロが発生し、世界を震撼させている。
テロが起こったのは2019年4月21日。キリスト教のクリスマスと並ぶ2大祝日イースター(復活際)の日、コロンボ周辺の教会や複数の高級ホテルで自爆テロが発生、犠牲となった者は、日本人1人を含む250人以上に及んだ。死者200人を超える大規模テロはまれだ。スリランカ政府は非常事態を宣言した。
スリランカ政府が実行犯と見なすのは、「ナショナル・タウヒード・ジャマア(NTJ)」と名乗る国内のイスラム過激派組織。組織のメンバーには中東で「IS」(イスラム国)の影響を受けた人物も加わっているとも報道され、ISは犯行声明を出した。この報道が事実ならば、タウヒード(神の唯一性)はイスラム教教義の基本用語なので、犯行グループがイスラム過激派とつながりがあると断定できる。
民族や宗教観の対立はイギリスの置き土産
しかし、このテロ事件については、まだ多くの疑問がある。なぜ寺院ではなく、教会が狙われたのか。スリランカ政府は2100万人の人口のうち、75%を占めるシンハリ人が主導している。シンハリ人はほぼ上座部(小乗)仏教徒である。シンハリ人はアーリア人を自称する。シンハリ人に次ぐ民族は、人口の15%を占めるタミル人だ(外務省基礎データより)。タミル人はヒンズー教がもっとも多いが、イスラム教、キリスト教も少なからずいる。タミル人はスリランカの北部や東部に多く住んでいる。
スリランカは海のシルクロード、インド洋交易の要衝にあるので、紀元前からインド人が移り、仏教、ヒンズー教を伝えた。7世紀以降はイスラム教徒が交易を求めて進出している。近代に入ると1505年にポルトガルが到来。1602年にオランダ東インド会社がポルトガルを追い出して占拠した。1796年からはイギリスがオランダを駆逐し植民地に。イギリスはスリランカの農業、工業、文化、宗教、制度に大きな影響を残しており、セイロン紅茶はプランテーションで、イギリス人が栽培させたものだ。現在のスリランカにおける民族や宗教間の対立は、イギリスの置き土産といっても過言ではない。
スリランカのキリスト教徒は人口の8%と少ないが、イギリスの植民地時代に初等・中等教育の多くを教会や宣教師が担ったことから、キリスト教の教義(世界観)は、仏教やヒンズー教徒にも広まった。とくにイギリスと関わる公務員や商工業者には、宗派を超えて英語とキリスト教(改宗者は少ないが)が広がった。
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