自爆テロのスリランカはインド洋に浮かぶ真珠

なぜ観光客に人気の国で250人超が死んだか

「分割して統治せよ」。英仏が採用した植民地支配の原則だ。この政策では、植民地の多数派が排除され、少数派が優遇される。支配者にとって都合がいいからだ。

少し脇道に入るが、イラク(イギリスが領土を決めて1922年にイラク王国を建国)では、人口の60%を占めるアラブ人シーア派が権力から排除され、人口の20%を占める少数派のアラブ人スンニ派がサダム政権を経て、2003年のイラク戦争まで支配権を握る。またシリア(フランスが植民地にした)では、人口の12%のアラウィー派が軍隊で重用され、バアス党革命で権力を握り、苛烈なシリア内戦を経て、現在もアサド政権が続く。

スリランカの場合、イギリスがシンハリ人よりも重用したのが、少数派のタミル人だ。タミル人は英語を積極的に受け入れる。多くのタミル人が植民地時代に官僚や法律家という公職に就いた。

だが、スリランカ独立後は、多数派であるシンハリ人と仏教の巻き返しの時代に入る。

シンハラ語のみを公用語とし、仏教に対し国教に準じた地位を与えたシンハリ人政権の政策によって、タミル人との対立は決定的になる。1983年に始まり、2009年にタミル人の敗北宣言で終わる内戦では、死者10万人で難民30万人という惨禍を招く。タミル人は、「タミール・イーラム解放のトラ」(LTTE)という武装組織を立ち上げ、政府に応戦したものの、大勢を覆せなかった。

複雑な対立の構図にイスラム過激派が絡む

今回のテロ事件では、真っ先にLTTEの犯行ではないか、という観測が生まれ、日本では「イーラム解放のトラ」を「イスラーム解放のトラ」と誤記したツイッターもあった。イーラムとはスリランカを指す。そのLTTEは、1991年にスリランカ内戦に介入したインドのラジブ・ガンジー元首相を暗殺するなど、大規模なテロを繰り返していた。LTTEは和平後もアメリカによって、外国テロ組織に指定されている。

さてLTTEと比較すると、「ナショナル・タウヒード・ジャマア」は規模の小さい正体不明の泡沫組織に見えるが、ISが絡んでいるとすれば、複雑なスリランカ国内の民族や宗派争いについて、新たにイスラム過激派が参入したことになる。せっかく和平にこぎつけて経済発展を遂げているスリランカに暗雲が立ちこめている。

犯行グループがISに属するとすれば、シリアやイラクで敗北したが、まだ国際ネットワークは残っていることを誇示したかったのだろう。

最後に、スリランカに生まれた「仏教過激派」という、聞き慣れない現象を考えてみたい。19世紀から衰弱した仏教を再興する運動が起こるが、これはキリスト教の攻勢に対抗したものだ。仏教はもともと戦闘精神と組織力が脆弱なために、世界史的に見て、一神教のキリスト教とイスラム教と競合する地域ではいつも負けていた。だから、平和で柔和な宗教といえるのだが、これではいけないと上座部仏教の再構築を図る動きが生まれた。

出家者と在家者の垣根を低くして、在家者にも一定の個人の自覚=義務と規律を求めることになる。さらに仏典を読む学習会や学校設立を推進。19世紀にはキリスト教に対抗して大規模な禁酒運動を展開する。

家族、財産、人間関係を捨てて(=出家)修行し、個人の解脱と涅槃を目標にする上座部仏教の出発点とは、遠く離れた地点に行ってしまった。最後は武装闘争やテロにまで走る。あまり知られていないことだが、テロ事件前には、仏教過激派がキリスト教徒やイスラム教徒を襲うことは珍しくなかった。スリランカ情勢に詳しい杉本良男・元国立民族博物館教授は、著書『スリランカを知るための58章』(明石書店)で「プロテスタント仏教」と呼ぶ。聞き慣れない用語だが、補足するとプロテスタントの影響を受けて変わった、戦闘的な仏教と定義することができるかもしれない。仏教を愛する欧米の神智学の影響も19世紀から受けている。

上座部仏教全体がプロテスタント仏教になっているとはとてもいえない。ただし、一部にイスラム過激派に似た、戦闘的なグループがいることは確かなようだ。これがスリランカの民族や宗派の対立を、さらに複雑なものにしているに違いない。

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