死に至る病でさえ克服した「人類と薬」の世界史 たゆまぬ努力と好奇心が不可能を可能にした

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私たちの健康に欠かせない薬。どうやって生まれ、進化してきたのか。その歴史を、世界の薬学とともにご紹介します(写真:Table-K/PIXTA)
人類を病魔から救う「薬」は、いったいどのようにして誕生したのか?内科医で英語医学専門誌にも多数の発表をしている谷本哲也氏が解説します。

人類は、薬をいつから使い始めたのでしょうか。古代から現代までの人類と薬の関係を、駆け足で振り返ってみましょう。

人類最古の薬は約5000年前のもの

古代から中世までは、呪術や魔術、祭儀の中で、薬や麻薬、毒物が混沌とした状態で共存していました。約5300年前の世界最古のミイラは、アルプスの氷河の中から見つかったことからアイスマンの通称で知られています。アイスマンの胃の中からは、毒性もあるシダ植物の成分が見つかっています。なぜこの植物を食べたのか定かではありませんが、胃痛に対する薬として使っていた可能性もあるようです。もしかしたら、人類最古の薬の使用例なのでは、とも言われています。

古代中国では、1~2世紀ごろの後漢代編纂(ごかんだいへんさん)とされた薬物書『神農本草経』が有名です。神農伝説にあやかってまとめられたようです。神農は5000年前の農業と医薬の神とされており、植物が毒なのか薬なのかを自ら試して判別し、最後は薬物中毒を起こして亡くなったと伝えられています。この伝説もまったくの作り話ではなく、似たようなことを古代中国人が行っていたことは間違いないでしょう。

古代文明では、エジプトでも当然薬の記録が見つかっています。ドイツ人エジプト学者のゲオルグ・エーバースが持ち帰り、現在はライプツィヒ図書館に保存されているエーベルス・パピルスは、紀元前1500年ごろ記録されたと考えられ、最も古くかつ重要なエジプト医学文献とされています。700に及ぶ薬の調合や処方が記載され、主に没薬、乳香、ひまし油、アロエやニンニクなど薬草成分が記載されていました。

インドのアーユルヴェーダもこれに劣らず古くからあり、3000~5000年前にさかのぼります。生命を意味するアーユスと知識を意味するヴェーダを合わせた言葉で、医療だけではなく、人生訓や哲学まで含んだインドらしい理論体系です。紀元前12~15世紀ごろ成立した最古の聖典とされるリグ・ヴェーダには、すでに67の薬草を使った治療法が記されています。

3~4世紀ごろに成立した古典医学書『スシュルタ・サンヒター』には、蛇咬傷の解毒剤として、毒草として知られるナス科のヒヨスを用いるとされています。7世紀には、病原を意図的に取り入れるワクチン療法の考え方のめばえもあり、効き目はなかったでしょうが、蛇対策として蛇の毒を飲んでいた僧侶がいたそうです。

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