「追われる国」で金融政策が効かない根本理由 「誰もお金を使わない国」の経済政策を考える

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黄金時代には企業にとって投資機会はふんだんにありました。お金を借りて工場を建設し、新製品を売り出しさえすれば利益はおもしろいように上がりました。そういう時代には金融政策が有効でした。お金を借りたい人がたくさんいたからです。

一方、そのような時代には、財政政策には出番がありません。民間の貯蓄に限りがある中で、政府が資金調達すればたちまち金利が上がって景気にマイナスになってしまう、いわゆるクラウディングアウト問題が発生してしまうからです。したがって、黄金時代には金融こそが経済政策の王道でした。

しかしながら、経済のグローバル化が進み途上国の経済が発展すると、国内よりも海外で設備投資するほうが資本のリターンが高くなります。当然、企業は国内で投資を行わず、海外に投資をするようになります。そうなると、バランスシート不況時と同じように、企業は国内で資金調達をしない状況が続くことになります。

本来、海外投資にはカントリーリスクがつきものです。投資収益率にかなりの差がないと企業は海外に投資しません。国内の投資収益率15%なら海外では35%ぐらい必要です。逆の見方をすると、このくらいのリターン差がある場合、国内で金利を1~2%下げて投資コストを引き下げたところで国内に投資は戻ってはこないのです。

追われる時代には財政こそが王道

したがって、追われる国では、極端な例ですが、金利をゼロにしても家計の貯蓄が企業の投資を上回るということが実際に発生します。これを放置すれば、経済は民間の過剰貯蓄の分だけ、どんどん悪化していってしまうでしょう。

そうなれば、政府に出番を仰がなくてはなりません。民間には資金需要がないのでクラウディングアウトを心配する必要もありません。財政政策が最も効率的に効くのが今なのです。逆に金融政策はお金を借りる人がいないので、いくら緩和しても効果がありません。

問題はバランスシート不況下の財政政策と、追われる国の財政政策とでは大きな違いがあることです。バランスシート不況であれば、正しく対応すれば数年間で問題が片づきます。穴を掘って埋める式の財政政策でも何とかしのげるかもしれません。

しかし、追われる国の借り手不足問題はそんなに短い期間で解決するものではありません。先進国を追いかける途上国が次から次に出てくるわけですから、下手すると15~20年、50年もかかるかもしれません。

それを考えると、政府債務がGDPの100%を超える国々(日本はすでに200%を突破)では、政府が財政破綻を気にせずに長期間お金を使える環境を作る必要があります。それには次の条件をクリアしなければなりません。まず将来の国民に借金のツケを回さないようにできるかどうかが問題です。

政府が最後で唯一の借り手になると、金利が大幅に下がります。日銀の異次元緩和で今の日本国債の利回りは当てになりませんが、その前の利回りは0.7%でした。つまり0.7%のリターンを得られる公共事業を見つけることができれば、納税者にツケを回さず財政出動ができることになります。

かつて日本の黄金時代の10年国債の利回りは5~6%もありました。5~6%の投資リターンを出せる公共事業を探すのは至難の業です。民間企業でさえ5~6%の投資収益を上げるのにひいひい言っていたのに、政府が同じものを探すのはもっと困難でしょう。しかし0.7%の投資収益率でよいのなら、日本中から優秀な人材を集めればよいアイデアが出てくるはずです。

もう1つのハードルは、優良な公共投資案件の選び方です。今までのように政府の役人に任せると政治の圧力に負けてしまうでしょう。政治家の利益誘導で採算は後回しになってしまいます。こうした無駄遣いを2~3年ならともかく、15~20年も続ければ国の財政は確実に破綻してしまいます。こうした事態を避けるために、政治から独立した委員会が必要です。政治家や国民一般から提案された公共事業が十分ペイする案件かどうか、厳密に精査する必要があります。

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