「追われる国」で金融政策が効かない根本理由

「誰もお金を使わない国」の経済政策を考える

独立委員会というアイデアは別に目新しい話ではありません。黄金時代にも歴とした独立機関が存在していました。中央銀行です。黄金時代の中央銀行は政府から独立していないと大変なことになるというのが、人類が歴史から学んだ知恵でした。追われる国の場合は、財政が政策の王道になります。政治から独立した財政委員会がぜひとも必要です。

貿易赤字の蓄積とトランプ政権

世界経済に目を転じると、トランプ大統領の登場以来、自由貿易の危機が叫ばれています。私は、世界経済の成長のために、自由貿易は絶対に守らなければならないと考えます。そして、自由貿易を守るためには為替相場や自由な短期資本移動を規制することも必要と考えます。

自由貿易は同じ国の中に勝ち組と負け組をつくります。しかし、勝ち組が得ることが負け組が失うものよりも多いので、勝ち組から負け組に所得の再分配が行われていれば、国全体としては必ず自由貿易の恩恵が上回ります。自由貿易を推進すべきだとなります。

ところが、この理論には1つの大前提があります。各国の貿易収支は一定の期間をとれば均衡するというのが前提です。もしその国の貿易収支が均衡せず、大きな赤字を垂れ流し続けていたら、毎年、負け組の数が増えていくことになります。

アメリカの貿易収支が最後に均衡したのは1980年のことです。そこから40年近くもの間、赤字を垂れ流し続けたことで負け組の数が増え続けて、2016年11月にはトランプを大統領に当選させる人数にまで達してしまったのです。

そうなると問題の設定は、次のように変わります。選挙民の大半が自由貿易の負け組だと思っている民主主義国で、自由貿易をどうやって維持するのか。保護主義がこれ以上ひどくなる前にどうやって貿易収支を均衡に近づけるか。こうした問題を、とくに黒字国の人々は真剣に考えなくてはいけません。

アメリカの貿易黒字は中国、日本、台湾、韓国だけで6割以上を占めています。東アジアの国々がもっと当事者意識をもつ必要があるでしょう。

貿易不均衡の責任は、自由貿易自体ではなく資本移動の自由化にあるというのが私の認識です。戦後の自由貿易は1947年のGATT体制に始まりましたが、ニクソンショックでブレトンウッズ体制が壊れ、変動相場制に移行しました。

しかし、変動相場制に移った後でも、貿易不均衡が大幅に拡大しないメカニズムがきちんと存在していました。貿易不均衡が拡大すると為替相場が変動して、つまり黒字国の通貨が上がり赤字国の通貨が下がって、貿易収支の黒字や赤字が均衡に向かうようになっていました。

ところが、1980年前後に大きな変化が訪れます。日米では1980年前後に資本移動の自由化や金融自由化に踏み切った結果、今の為替市場の95%の取引が資本移動関連となり、貿易関連の取引はわずか5%となってしまったのです。

この95%はどういう理由で動くかといえば、貿易収支の均衡など考えていません。とにかく、どこの国の金利や資本リターンがいちばん高く見えるかで動いています。そういう世界では、為替が動いて貿易不均衡の拡大が抑えられて、保護主義の台頭を防ぐメカニズムがまったく作動しなくなります。

日本は大きな黒字を出しているのに円高にならない。アメリカは大幅な赤字を出しているのにドル安にならない。これが40年続いた結果が、トランプ政権の誕生につながっているのです。自由貿易は人類の生活水準をそれまで想像できない高見にまで引き上げてくれました。その体制を守るためにも資本移動の自由化は考え直す必要があります。

労働者が国境を越えられない中で、資本だけが国境を自由に移動するとどのような問題が発生するのか。資本移動のプラスとマイナスをもっときちんと研究する必要があります。どういう局面なら移動を自由にし、どういう局面なら規制するかを決めたほうがよいでしょう。

もし資本移動を規制しないのであれば、1985年9月のプラザ合意のような大規模な為替調整をタイミングよく実施するしかありません。このようなメカニズムの整備によって、貿易不均衡が自由貿易を破壊しないようにすることが、世界経済にとって喫緊の課題と言えるでしょう。

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