4月29日スペイン総選挙でリスク再燃のおそれ 政権の「不安定」が危機を封じ込めてきた

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他方、右派の連立政権が誕生する場合、カタルーニャの独立をめぐる緊張が再び高まる可能性がある。最近ではカタルーニャ州民の間にも、一方的な独立に向けた動きを突き進めることに消極的な意見が広がっているが、同州の独立に対して厳しい政権が誕生することで、州民感情に再び火がつくおそれがある。

最近の世論調査から判断して、右派政権が誕生するためには、ボックスの協力が不可欠な状況にある。昨年12月に州議会選挙が行われたアンダルシア州では、国民党と市民の連立政権にボックスが閣外協力して州議会を運営している。ボックスは自治州の廃止や中央集権制への回帰を主張しており、カタルーニャの独立運動とは真っ向から対立する。

右派の連立政権なら「カタルーニャ」問題再燃

カタルーニャ問題がエスカレートしかねない出来事も控えている。2017年にスペインからの独立の是非を問う住民投票を指揮し、国家反逆・扇動・公金不正使用の罪に問われているウリオル・ジュンケラス元州副首相の裁判が2月に開始され、数カ月以内に判決が出ると言われている。

同じ罪に問われ、国外逃亡中のカルラス・プッチダモン元州首相は、5月23~26日に行われる欧州議会選挙に出馬する意向を表明している。同氏が当選すれば、欧州議会議員としての不逮捕特権を行使可能と主張するが、欧州議会議員に就任するにはスペイン政府の承認が必要とされ、ジュンケラス氏の判決とともに新たな衝突の火種となりそうだ。

このように、左派政権が誕生すれば財政悪化が意識され、右派政権が誕生すればカタルーニャの独立問題が再燃しかねない。もしかすると、スペインにとっては、左派も右派も過半数を確保できず、政治の膠着が継続するほうが望ましいのかもしれない。当初、政権交替に協力したカタルーニャの地域政党は、ジュンケラス元州副首相の裁判が開始されたのをきっかけに、社会労働党政権への協力を取り止めた。

改選後も今と同様にカタルーニャの地域政党の協力なしに議会の過半数が確保できない場合、左派の連立政権は非多数派政権を運営するか、何れかの段階で再選挙が必要になる。他方、州自治に批判的なボックスが協力する右派政権には、何れの地域政党も距離を置くことが予想され、3党以外の政権参加は望めない。

むろん、政局の「不」安定化で財政問題やカタルーニャ問題を封印したとしても、政治膠着が長期化すればするほど、必要な改革が停滞し、同国の競争力が阻害されかねない。財政拡張に舵を切ることもできないが、同時に財政再建も進まない。カタルーニャ問題のエスカレートは回避されるかもしれないが、問題解決に近づくわけではない。どちらに転んだとしても、スペインの最良の時は終わりを告げようとしている。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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