体感的な実質所得が下がっていると考えると、アメリカの2000年以降の経済成長やインフレは、景気拡大によるものというより、「普通の人々の生活水準を押し下げた」という要素が強く反映されたものといえるでしょう。ただし、幸か不幸か、アメリカ国民が実質所得が低下していると感じるには、住宅バブルの崩壊を待たなければなりませんでした。
戦後最高の好景気とされた2005~2007年の期間も、アメリカ国民の実質所得は2000年の水準を下回っていましたが、人々がそれを実感できなかった背景には、住宅バブルがそれを覆い隠していたという特殊な事情がありました。低所得の人々ですら住宅ローンやクレジットカードローンで借金漬けだったので、庶民が「生活が苦しい」などと感じることはなかったのです。
住宅バブル崩壊→格差の拡大→国家の分断
しかし、住宅バブルが崩壊した後は、不況による雇用環境の悪化に加えて、そういった隠れていた事実までもが露呈し、アメリカは深刻な貧困や格差の問題に苦しむことになりました。だからこそ、全米で2011年に大規模なデモ活動「ウォール街を占拠せよ」が起こったのであり、今では極端な右派と左派による政治や国民の分断が進むことになってしまいました。
現実に、アメリカ国民の生活は極めて疲弊しています。2012年、オバマ政権は、国民の6人に1人が貧困層のレベルにあり、予備軍を含めれば3人に1人が貧困レベルに該当するという調査結果を公表しています(2014年1月10日配信の「貧困大国アメリカを追いかける日本」参照)。
今のアメリカ経済が2012年当時よりはよくなっているとはいえ、トランプ政権は貧困や格差の問題に大した対策を講じていません。貧困層や貧困層予備軍の数がさほど減っていないうえに、格差はいっそう拡大している状況にあります。
同じアングロサクソンの国であるアメリカとイギリスでは、経済危機の時期を除いてGDPと企業収益が順調に拡大し続けてきた一方で、貧困層および貧困層予備軍が増え続け、格差は史上最悪の水準にまで拡大してしまっています。その結果として、通常では受け入れられないポピュリズム的な考え方が蔓延し、国家の分断(アメリカではトランプ派と反トランプ派の分断、イギリスではEU離脱派と反EU離脱派の分断)を招いてしまっています。
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