なぜ地銀はモラルを失ってしまったのか

このままでは「自己破産者」がさらに増える

メガバンクのように海外に活路を求めることができない地銀は、金融緩和によってあふれた低金利のマネーをリスク度外視で返済が厳しい企業に貸し込むだけでなく、将来の不良債権予備軍に加わるかもしれない貸家への融資に流し込んできました。金融庁の森信親・前長官がスルガ銀行の高収益体質を褒め称えていたという背景もあり、多くの地銀は多少の不適切な手続きには目をつむっても、とくに貸家への融資(不動産投資への融資も含む)には力を入れてきたという事実があるのです。

2016年11月19日の記事『「サラリーマン大家」の時代は間もなく終わる』や2017年3月23日の『やっぱりマイナス金利は「毒薬」だった』で、こういった貸家への融資に傾斜している銀行や、安易に貸家を持とうとする人たちに対し、強く警鐘を鳴らし続けてきたつもりです。

これから本格的な人口減少社会が到来し、空き家は増え続けていくというのに、供給過多にある貸家の供給がさらに増え続けるという状況は、10年後や20年後には融資の返済原資となる家賃収入が落ち込み、銀行の不良債権予備軍を増やしていると考えても差し支えがなかったからです。

ただし、私が地銀に同情するのは(本当は同情などしてはいけないのですが)、日銀の副作用が大きい政策によって収益が大幅に悪化した環境下において、普通の住宅ローンに比べて貸出金利が高いアパート・マンション向けの融資を積極化していったのは仕方がなかったということです。日銀が地銀をそういう方向へ追いやってしまったという点に関しては、私は日銀の責任は重いのではないかと感じているところです。

実のところ、日銀の黒田東彦総裁は当初、マイナス金利の代表的な効果として貸家建設の増加を取り上げていました。驚くべきことに、「副作用」を「効果」と取り違えていたのです。さすがに日銀も間違いに気づいたのか、2017年になってからはようやく副作用のリスクを認め始め、日銀幹部の中でも「貸家の急増は、将来の経済にマイナスに働く」という認識が共有されるようになったという経緯があるわけです。

収益悪化に苦しむ地銀のモラルが崩壊した典型例というのが、スマートデイズが展開した女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の問題であるといえます。

ハウスメーカーも銀行もモラルが崩壊してしまっている

金融の知識を持っている専門家にとって、「かぼちゃの馬車」のスキームが簡単に破綻すること、それによって多くの自己破産者を出すようになるということは、いたって常識的なシナリオであったと思います。あのようなスキームに協力して、融資を受ける人たちの収入や預金に関する書類を改ざんしていたスルガ銀行が糾弾されるのも当然といえるでしょう。

しかしながら大手のハウスメーカーも、「かぼちゃの馬車」と程度の差こそあれ、貸家や住宅の営業では同じようなことをやっています。例えば、住宅購入者に対する銀行融資は年収の5倍がぎりぎりの許容水準であるはずですが、ハウスメーカーではこの水準を大きく超える返済計画書を提案し、銀行は大した審査をすることなくその融資を実行しているという事例があまりに多いのです。

私が聞いたいちばんひどい事例では、北海道の地銀の融資を受けて、年収の10倍もの住宅を買ったという人がいるといいます。金融知識のない購入者に対して年収の10倍もの借り入れを勧める(あるいは融資する)というのは、その購入者に「将来、自己破産者になれ」と言っているようなものです。

目先のノルマや利益のためとはいえ、ハウスメーカーも銀行もモラルが崩壊してしまっているように思われます。このような杜撰な融資はいずれ「かぼちゃの馬車」と同様に、大きな問題に発展するのではないでしょうか。

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