レジ袋のポリエチレンが「人工網膜」になる日

岡山大学「高解像度での視力回復」の新技術

生産設備の導入にはノウハウと資金が必要だが、まず岡山県総社市のリサイクル材料メーカー三乗工業が約2年前、人工網膜に関する講演を聞いて協力を申し出た。とはいえ、医療機器、医療素材の生産からは遠く、当初は工学部研究室で得られた知見を基に産学連携での試行錯誤の繰り返しだったそうだ。

こうした研究開発を経て、岡山大学内に専用クリーンルームを作り、専用の生産設備を稼働させることに昨年成功した。クリーンルームの中で高精度の金型を用いた“プレス加工”でポリエチレン基板を生産し、それを岡山県にあるバイオメディカル企業の林原から提供された光電変換色素分子と結合させる。この工程により品質、無菌性が担保され、メディカルグレードの人工網膜の作製が可能となった。

実際に眼球への移植を行う際には、人工的に発生させる網膜剥離の大きさ(個人差があるためカスタムメイドである必要がある)に合わせて、手術室でポリエチレン薄膜をはさみで切って移植手術を行う。

人工網膜を移植する際に使うディスポ注射器に似た治具(人工網膜注入器)も、数社の岡山県の異業種ものづくり中小企業(三乗工業、シバセ工業、ケイ・テクノなど)と連携して、創意工夫を加えながら開発しているという。

移植後少なくとも半年は機能する

挿入された人工網膜は、素材そのものの弾性で形状が復元され、剥離した網膜の裏に定着するが、定着し、安定して機能するまでには時間がかかるかもしれない。

サルの場合、1カ月後には明らかに機能していて、6カ月目までは機能することがわかっている。

この人工網膜をヒトに適用する認可が得られるようになれば、少なくともモノクロの視野を得られる可能性がありそうだ。しかも高額なデバイスは不要で、安価な素材を用いることで実現できる。

これまで多くの医療技術ベンチャー立ち上げに関わってきた岡山大学副学長の那須保友氏は「最先端の医薬品・医療機器といえば得てして高額というイメージがある。医療費の高額化が社会問題となる中、高機能かつ安価であることは世界中の誰も取り残されず恩恵を被れるということに大きな意義がある」と話す。

今年後半から来年にはヒトへの治験を始めたいとする岡山大学は、現在すでに稼働している地元企業との連携による人工網膜の生産、および移植用治具などの技術を基に、2021年の事業化を目指している。岡山から日本へ、そして、世界への展開を目指して、さらに北米の大学と連携してデータを積み上げ、北米市場も含めた製品販売を模索する。

人工網膜「OUReP」は視細胞が死滅する病気(網膜色素変性、加齢黄斑変性など)には有益な解決策となりそうだが、一方で視神経からの刺激を脳に伝える神経が死滅する疾患(緑内障)には効果が得られない。しかし、同大学のチームはOURePとともに、視神経を代替する人工視神経の開発も進め、視覚障害に対して低廉な治療方法の開発を地域連携で進めていくという。

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