お一人さまで「家で逝く」幸せな最期は存在する

孤立死・孤独死は必ずしも悲劇ではない

電話に出ないことを案じた子どもが、親戚に頼んで家に入ってもらうと、すでに冷たくなっていたようです。直後に救急車を呼ぶも、到着した救急隊は完全な死体と判断し、病院に搬送することなく、警察に連絡。そういった経緯で、警察から私に要請が入ったのです。

警察とともに行った聴き取りとご遺体の確認から、死因を特定します。警察は事件性の有無を慎重に確認しましたが、この上なく治安のよい名田庄では、もちろん事件性なしという判断になりました。死因は、嘔吐物を喉に詰まらせた窒息であり、治療中の病気との関連もなさそうです。

祭りの夜、酒と団欒に笑い死す

前日に地区のお祭りがあり、楽しそうにかなりの量のお酒を飲み、その酔った勢いで、夜になって子どもたちに次々と電話して、たいそう機嫌よく笑って話したのが最後の会話だったとのこと。

それがわかった時点で、改めて家の中を見渡すと、高齢男性の一人暮らしとは思えないくらい、きれいに整理整頓されています。これは想像ですが、数年のうちに母親と奥さんを亡くしたので、たとえ自分にその予兆がなくとも、自らの死を意識し、常に家の中をきれいにしていたのかもしれません。

日付をまたいだ午前1時、やっと診療所に戻って”死体検案書”を作成します。家族が取りに来るのは翌朝なので、仕上げておかねばなりません。

雪に見舞われた寒い夜中、凍えながらの死体検案はとてもつらいものです。帰宅し、すっかり凍えきった体を熱めの風呂で温めた後、寝ようとしましたが、現場の印象を引きずってなかなか寝付けません。なんとか眠りに落ちたのは、午前2時30分ごろでしょうか。

ところが。午前6時前に電話が鳴りました。老衰でそろそろお迎えかと思われていた90代のばあさまの家族からです。四世代が暮らす大きな旧家に住むばあさまで、20年来、私が主治医でした。むろん、すぐに駆けつけます。

ちょうど私が死体検案をしていた深夜0時に「ありがとう」と言ったのが最後の言葉だったそうです。自力でとれるわずかな水分だけで過ごしたためか、死に顔は安らかで、むくみもなくきれいです。

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