中核のスーパーが大不振のイオン、拡大路線と決別も出足から難航の兆し《特集・流通大乱》

拡大
縮小

地元との交渉が難航 ままならない閉鎖

09年1月に閉店を予定しているジャスコ出雲パラオ店。その隣りにはテナントを61店抱える大型SC「パラオ」がある。

ジャスコの閉店がテナント各社に知らされたのが半年前。それはちょうど6月21日に、山陰地方地盤のスーパーイズミのSC「ゆめタウン出雲」が、ほんの1キロメートル先に出たばかりのときだ。競合出現とジャスコ閉店の「ダブルパンチで客入りが減って、経営が立ち行かなくなるのでは」(出雲パラオ専門店)。テナント各社に動揺が走った。

その後、ジャスコが主導して新たなテナントが準備された。09年4月に衣食住がそろったディスカウントストアが代わりに入る見通しだ。この話がほぼ固まり、「ジャスコ閉店後、2カ月だけ耐えれば何とかなる。希望が持てるようになった」(同専門店)という。

出雲パラオ店は、撤退後のテナント誘致がうまく行えた例。実際は、業績不振で撤退した跡地に新しい商業施設を迎えるのは難しい。以前、閉鎖店の候補に挙がった店舗のある市の市長はいう。「われわれには新しい商業施設を連れてくるつてがない。GMS業態でいろいろなテナントと付き合いのあるジャスコさんに頼るしかない」。

昨年8月に閉鎖した大阪府貝塚市のジャスコ貝塚店は、閉鎖後も空いたまま建物が残っている。土地を含め不動産はイオングループの所有。地元からは「跡地には商業施設が望ましい」との声があり、解体して新設する案も検討されているが、跡地の利用方法はまだ決まっていない。

20年ほど前に出店した当初は「全国のジャスコの中でもトップクラスの売り上げ」(貝塚商工会議所)を誇った。しかし自社を含めた競合激化で様相が一変。従業員は近隣2店で吸収する形で閉鎖が決まった。

実はイオンは当初、07年末に撤退する計画だったようだ。だが、入居する地元テナントから反対の声が上がり、交渉が難航。結局、撤退は半年以上ずれ込んだ。

地元との調整、後継テナントの問題、人員の配置転換……。店舗の閉鎖は結果的に時間がかかってしまう。イオンにとっては、原状回復費用などの損失も発生する。昨年10月時点で28店を計画していた今09年2月期の閉鎖は、22店にとどまりそう。イオンにとっては一歩後退を意味する。

“外科手術”のうちのもう一方、業態転換は、GMSを閉鎖・縮小しながら「食品スーパーへ切り替える」(豊島専務)方針でいく。

山梨県笛吹市の石和(いさわ)サティでは昨年5月末、改装と同時にマックスバリュ東海を新テナントに入れた。山梨県内に1店舗しかなく、地域商材の品ぞろえが不十分だった石和サティ直営食品売り場を、地場商材に強いイオン傘下の食品スーパーに転換したのだ。同様の取り組みは、その他の店舗でも、マックスバリュ西日本やカスミなど、イオングループの食品スーパーがGMSの衣料や食品売り場の代わりに出店している。

ただ石和サティは、食料品以外のフロアは従来のまま営業している。食料品は衣料品に比べて、粗利率が15~17%低く、利益改善には結び付きづらい。依然、業態転換の方向性は見えないままだ。

「補完」としてだけの存在 中身のない出店のツケ

そもそもここまでGMSが苦戦を強いられるようになったのはなぜか。それはまず、GMSの最大の武器が失われつつあることが挙げられる。

消費者にとってのGMSの最大の利点は、1カ所であらゆるものを購入できること。だが、もはやこのワンストップショッピングはGMSの専売特許ではなくなっている。たとえば、地場の食品スーパーとユニクロ等の専門店、さらにはドラッグストアやホームセンターが隣り合わせで営業しているロードサイドの店であれば、ワンストップショッピングの機能はそこで十分果たされる。

あるSCデベロッパー会社の中堅幹部は言う。「GMSをテナントとして入れている理由は、万が一、ほかの専門店でなかったモノを補完するための存在だ」。相対的にワンストップショッピングの武器を失ったGMSは、これまで専門店に客を取られ続けてきた。

イオンの場合、その出店過程にも原因がある。

イオンは00年からGMSを核テナントとしたSCの出店を、専門店各社とともに加速していった。SCに出店する「モール型GMS」と呼ばれるモデルは、SCの主要顧客に合わせて30~40歳を対象としている。全国で出店を急いだイオンは、GMSを単独で出店する場合も、モール型を標準として出店した。

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