コマツが「戦略矛盾」を恐れない根本理由

「既存事業+新事業=両利きの経営」の可能性

そのためオメガは、新しい技術の存在に気づきながら、クォーツ時計に最初に進出する企業とはならなかった。結果としてこの技術は、当時は無名だった日本のセイコーが、世界の時計市場でリーダー企業の1つとなっていくきっかけとなったのである(世界初の市販クォーツ腕時計は、1969年にセイコーが発売した「アストロン」であった)。

スイスの時計メーカーは、宝飾店などで主に高級志向の顧客に高級時計を売って成功してきた。一方でクォーツ時計は、ディスカウントストアなどの大衆的な小売店で販売される薄利多売品として売られることになった。

破壊的イノベーションに対抗する

この歴史は、まさにハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授の説く「破壊的イノベーション」の事例となるものだ。なぜなら、破壊的イノベーションとは、最初は市場のメインの顧客のニーズには応えられない製品として出発し、やがて技術の進歩とともに市場のメイン製品となっていくようなイノベーションのことだからだ。

スイス企業の場合は、ディスラプター(破壊者)としての日本企業に市場を取られた後に、クォーツ時計の市場に後から参入することになった。結果としては、ローエンドはスウォッチなどが、中間価格帯はオメガなどが、ハイエンドはブランパンなどが競争力を取り戻し、スイスメーカーは世界の時計市場で最大のシェアを再度獲得することに成功する。

ただし、この過程で多くのスイスメーカーが淘汰されたことも事実だ(実は、オメガもブランパンも、現在は独立企業ではなく、スウォッチグループの傘下にある)。

スイスメーカーの多くは、機械式時計を完全に捨ててクォーツ時計に乗り換えたわけではない。例えばオメガは、機械式時計の事業を維持しながら、クォーツ時計の事業に進出し、復活に成功した。この意味で、この事例は、「両利きの経営」の典型的成功事例といえるだろう。

しかし、ここで着目したいのは、この事例は「両利きの経営」の戦略的な難しさも示唆していることだ。この事例においては、複数の組織的整合性間の矛盾だけではなく、市場での共食い(戦略矛盾)が存在する。既存事業と新規事業が、市場で同じ顧客を取り合ってしまうという問題が存在するのだ。

実は、市場での矛盾(戦略矛盾)こそ、ディスラプターへの対応に迫られている既存企業が、現在、直面している問題である。デジタルマーケティングに対応する既存広告会社、ビデオ配信専業企業に対応する既存テレビ局、カーシェアの普及に対応する自動車会社、ネットニュースのアグリゲーションサービスに対応する既存新聞社などが、市場での共食いを意識しながらの「両利きの経営」を迫られている。

この種の対応戦略は「やむをえず行う対応」にすぎないものと捉えられがちだ。しかし、真に攻撃的な対応戦略は、新しいビジネスモデルの創造であるべきだろう。そのためには、組織的整合性の矛盾のマネジメントだけではなく、市場での矛盾の創造的解決が必要だと筆者(根来)は考える。

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