コマツが「戦略矛盾」を恐れない根本理由 「既存事業+新事業=両利きの経営」の可能性

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そのような「矛盾の止揚」(止揚とは、対立し合う2つの関係を1つ上の次元へと引き上げることで対立を解消するという意味の哲学用語)は、つねに可能であるとは言えないが、ディスラプターのビジネスモデルに追随する形で「既存と新規の均衡(バランス)」を考える企業には決して訪れない大きな成功可能性がある機会でありえる。

デジタル対応において、このような創造戦略に取り組んでいる企業としてコマツがある。コマツは、2001年から自社の建設機械(建機)にGPSと通信モジュールを標準搭載した。KOMTRAXと呼ばれるサービスだ。このサービスによって、コマツの建機は初期購入費が高くても「ライフタイムコスト」(購入費+運用費用-中古売却代)が安いという評価を得ることに成功した。KOMTRAXは、付加サービスというより新しいビジネスモデルになったのである。

しかし、建機は工事現場の一部にすぎない。工事会社が求めるのは、工事全体の生産性向上である。そのためコマツは、ドローンの測量データから3Dの施工完成図面を作成し、施工計画シミュレーションを行ったうえで、施工実績を取り込み、最適施工計画を提案する「SMART CONSTRUCTION(SC)」サービスへと事業を発展させていく(2015年に発表)。

SCでは、GPSで位置を計算し、クラウド上の3次元の設計データを基に自動あるいは半自動で制御できる建機が使われる。ただし、ここでデジタル化に伴う「市場での矛盾」が生まれる。建機だけが工事に必要な機械ではないし、コマツの建機だけが工事現場で動いているケースは少ない。SCを突き詰めるためには、競争相手の機械を含む他社の機械も平等にデータ取得とデータ提供の対象にする必要があるのだ。

社会にとって新規な事業を創る

この矛盾を解消するためにコマツが始めたのが、LANDLOGというサービスである(2017年11月に開始)。LANDLOGは、土木・建設工事に関するあらゆるデータを蓄積・加工して必要な人(会社)に提供するデジタルプラットフォームだ。そのためには、ドローンを飛ばして計測した工事前の状況、ICT建機で削り出した施工後の地表面のデータ、移動させた土量のデータ、建機やダンプの処理量、現場作業員の労働時間などのデータを入れる(入れてもらう)必要がある。そして、自社だけではなく必要とする会社にアプリケーションを作ってもらって、蓄積したデータを使ってもらう。

ここで重要なのは、規約を守ることを前提にして、データを入れるためのAPI(システムとの接続)とデータ利用のAPIを、誰にでもオープンにすることだ。当然、競合相手にもオープンにし、建機以外にもオープンにする。

LANDLOGは、必ずしもコマツの利益にならないこともありえ、コマツから切り離された別会社として運営されている。コマツ自身もSCのソフトウェアとLANDLOGの接続を図るが、他社の利用も促す。競合相手は使いたがらないかもしれないが、土木・建設会社がLANDLOGを使うことを前提に工事を進めるようになれば、競合もLANDLOGを無視できなくなるだろう。このビジネスは、データ入力者と利用者が多くなると、価値が大きくなるネットワーク効果がある。

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