コマツが「戦略矛盾」を恐れない根本理由 「既存事業+新事業=両利きの経営」の可能性

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KOMTRAX、SC、LANDLOGに至る流れは、コマツがつねにこの分野のデジタルサービスを創造してきたことを意味する。決してディスラプターへの対応のために、既存事業とのバランスをとる戦略として、追随的に開発されてきたものではない。

このような創造戦略創発のためには、「自社にとって新規な事業」ではなく、「社会にとって新規な事業」を探索する必要がある。実は、オライリーとタッシュマンの議論には、この2つの「新規」の区別がない。この違いを意識することが、筆者(根来)の考える「両利きの経営」の発展させるべきポイントである。

矛盾を止揚する先に創造戦略がある

実は、前編で取り上げたアマゾン発展の歴史も、単純な探索と深化の循環ではなく、矛盾の止揚であったと考えられる。小売業(自社で仕入れてそれを自社倉庫から販売する事業)が既存事業であったアマゾンは、第2フェーズにおいて「他の小売業者向けプラットフォームを開設」することで大きな飛躍を遂げる。

この過程において、アマゾンは自社が小売業として売る製品と他社が自社のプラットフォーム(eマーケットプレイス)で売る製品を平等に表示し、価格が優位な場合は、他社取扱製品を上位に表示することをいとわない対応を行ってきた。書籍においては、自社が新品の取り扱いをする小売業であるにもかかわらず、古書を同時にリストアップする方式に踏み切った。

これらは、世界で初めて採用されたビジネス形態であり、「矛盾の止揚」といえるものであり、これができたからこそ、アマゾンの今日はあるのだろう。アマゾンの成功は、プラットフォーム企業だったからではなく、プラットフォームという事業形態を取り込んだ複合されたビジネスの「創造戦略」にあるというのが私見である。

デジタル対応だけが探索の対象になるわけではないが、デジタル化は多くの企業にとって喫緊の大きな課題である。デジタル時代に日本企業が大きく発展するためには、既存事業とデジタル事業の「バランスを図る」のではなく、「矛盾を止揚する」創造戦略が必要なのではないか。そのためには、『両利きの経営』から学び、さらにそれを乗り越えることが必要だろう。

根来 龍之 早稲田大学ビジネススクール教授

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ねごろ たつゆき / Negoro Tatsuyuki

京都大学卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。鉄鋼メーカー、英ハル大学客員研究員、文教大学などを経て、2001年から現職。早稲田大学IT戦略研究所所長を兼務。専門は、ビジネスモデル、プラットフォーム戦略、IT経営。経営情報学会会長、国際CIO学会副会長、CRM協議会副理事長などを歴任。著書に『プラットフォームの教科書』『ビジネス思考実験』『事業創造のロジック』(いずれも日経BP社)、『代替品の戦略』(東洋経済新報社)など、主な監訳書として、ロール・レイエ/ブノワ・レイエ『プラットフォーマー:勝者の法則』、マイケル・ウェイドほか『対デジタル・ディスラプター戦略』(いずれも日本経済新聞出版社)がある。

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