川崎汽船、100周年なのに大手で独り負けの構図 みずほなど大手行支援でも、未来が見えない
まずONE社の業績動向には不透明感が残る。2018年4月に営業運航を開始したONE社は当初、初年度に1億1000万ドル(約121億円)の最終利益を見込んでいた。しかし、立ち上げ時にシステムなど従業員の習熟不足に伴う混乱で失注が発生、貨物量が計画を大幅に下振れた。
結果として2019年3月期は、5億9400万ドル(約653億円)の赤字に転落する見通しだ。この影響で、31%を出資する川崎汽船は200億円程度の持ち分法投資損失を計上することになり、構造改革以前に最終赤字転落を招いてしまった。
2018年11月に来日したONE社のジェレミー・ニクソンCEOは、「初期の問題はすでに解決した」としながらも、「10~12月の貨物量は想定を下回っている」と発言。2020年3月期はコスト面で統合効果が本格的に発現するとはいえ、日用品や家具、自動車部品などを運ぶ外航コンテナ船の貨物量や運賃は、世界景気の動向に左右されるだけに、米中貿易摩擦の影響によっては大きな利益貢献は期待しにくくなる。
そのONE社に38%出資する日本郵船、31%出資する商船三井も、同様にONE社の持ち分損失を計上する。しかし、日本郵船の最終損益は10億円の赤字にとどまり、商船三井は210億円の黒字を確保する見通しだ。日本郵船の場合、空運子会社の不適切整備に伴う運航停止がなければ、赤字は避けられていた。
両社が川崎汽船のような大幅赤字を免れたのは、すでにコンテナ船の逆ザヤを見越し、大規模な損失引き当てや特損を計上済みだったことが大きい。
一方、川崎汽船も損失引き当てなど対応を進めていたとはいえ、両社と比べて遅きに失した印象は否めない。そもそも、ライバル関係にある海運大手3社がコンテナ船事業を統合したのは、世界的にコンテナ船業界の再編が進んだことでシェア争いが激化、単独では採算が確保しにくくなったからだ。
遅れを取り戻す次の一手を打ち出せるか
川崎汽船にとっては強みの自動車専用船が不振に陥ったことも誤算だ。中南米や中近東、欧州航路などが軒並み低調となり、海運大手3社で唯一の営業赤字転落の要因となった。同社は不採算航路の縮小や運賃見直しによって、「2020年3月期は約49億円の収益改善効果を確保できる」(鳥山幸夫・専務執行役員)とするが、世界景気次第では目算が狂いかねない。
4月に就任した明珍幸一社長は社長内定時の会見で、「ばら積み船とエネルギー資源輸送、自動車船、物流関連が4本の柱になる」と意気込みを語った。もっとも、この4事業は切り離したコンテナ船を除く従来からの主要事業であり、列挙しただけでは勝ち残りに向けた将来像がみえない。片や日本郵船や商船三井は、需要が高まっているLNG船などエネルギー資源輸送関連に積極投資を行っており、利益の上積みを狙っている。このままでは川崎汽船の出遅れ感は増すばかりだ。
2018年6月には、資本準備金を取り崩して繰越欠損金を解消、早期復配を目指したばかり。にもかかわらず大規模な構造改革を余儀なくされたという現実。今までも折に触れて見舞われてきた急激な市況悪化に耐えつつ、成長に向けた次の一手を早期に打ち出せるのか。”100歳”になった川崎汽船が担う課題はまだ多い。
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