日本の防衛装備が中国に後れを取る根本的背景 技術的問題はもちろん法規制もハードルだ

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同社は今年、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで行われた見本市「IDEX2019」でも同製品を展示していたが、輸出を通じて、ユーザーの意見をフィードバックして、それを反映し、さらに意見をもらって反映するというスパイラル的に能力を高めているのだろう。2016年に登場したということはその数年前、2014年ぐらいから開発していたということだ。

対して装備庁のシステムは2023年に一応の開発のメドが立つが、自衛隊がいつ装備化するかもわからない。実用化には10年以上の差がつくだろう。しかもその頃には中国はさらに先を行っている。むしろ自衛隊が他国で開発されたものを採用、運用してユーザーとしてのノウハウを蓄積するほうが先決ではないかと思う。

そもそも技本時代からそうだが、防衛省の開発は単なる技術実証なのか、装備化を前提とした技術実証なのか、装備開発なのか非常に曖昧だ。これは自衛隊側からもよく批判されていることである。「技本(現装備庁)がなければ開発がもっとスムーズに進んでいた」と話すメーカーや自衛隊の開発関係者は少なくない。

実用化している各国に対し、未実装の日本

技本(現装備庁)では2007年から3年間にわたって「壁透過レーダー技術の研究」を行った。これはコンクリートをはじめとする壁面を通して人間などを探知できるもので、人質救出や市街戦で有用な装備であり、また震災などでの人命救助に役立つと期待されていた。

ただこの時点でもすでにイギリス、ポーランド、イスラエルなどで製品が販売されており、完全な後追いであった。唯一の開発理由は他国の製品が総務省の指定する周波数帯に合致しないから、それに合う国産品を開発するということだけだ。

だが、自衛隊で採用するにしても必要数はたかが知れている。例えば消防や自治体などの潜在需要を調べたうえで、製品化するということをまったく技本は考えなかった。必要であればむしろ、総務省を説得して周波数帯を割り当ててもらい、輸入品を採用すればよかっただろう。

ヒューマン・ノバスカイ・エレクトロニック・テクノロジーの軍用壁透過レーダー(筆者撮影)

案の定、この技本が開発した壁透過レーダーを自衛隊はいまだに装備化していない。東日本大震災や多くの震災があったにもかかわらず、だ。対してIDEX2019では中国のヒューマン・ノバスカイ・エレクトロニック・テクノロジーは、軍用壁透過レーダーを発表していた。すでに人民解放軍に採用されているが、性能的には他社に匹敵するという。

そもそも同社が壁透過レーダーの開発を始めたのは約10年前で、きっかけは震災であったという。このため民生用の製品も開発販売しているという。つまり、開発は技本とほぼ同時期だ。だが実用化では完全に追い抜かれている。技本の開発でも担当したメーカーは独自に警察や消防、あるいは輸出もできたはずだが「防衛省の仕事」なので初めからそれは考えなかったのだろう。つまり防衛省の仕事として受ければ、その後の発展はありえないということだ。

例えば諸外国で採算ラインを1000個で設定しているところ、日本の防衛省では100個しか需要がなくても開発、生産してしまう。当然1個当たりの開発費は高くなるし、生産ラインを維持するために生産ペースは遅くなる。このため調達単価がさらに高くなるという悪循環に陥る。また諸外国では輸出などでユーザーから受けた苦情等のフィードバックを通じて、性能、品質、コストの向上が図られるが、わが国ではそれがなく、十年一日で同じものが生産される。だから先の無人機のように「実戦」で使い物にならない。

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