日本の防衛装備が中国に後れを取る根本的背景 技術的問題はもちろん法規制もハードルだ

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それも単に技術の問題だけでなく法律や規制がハードルになる。防衛省は装備の運用に関する法律の改正や他省庁との調整を嫌って、現状の環境のままで対処しようする。だがそれは対処が不可能な場合も多い。

東日本大震災で一度も飛ばなかった陸自のUAV、FFOS(筆者撮影)

実は東日本大震災の際、陸自の無線が通じなく、混乱を招いたことがあった。何世代もの無線機が混在したことも理由だったが、最大の理由は本来、軍用無線にふさわしくない周波数帯が自衛隊に割り当てられていたからだ。

筆者はこの点を震災以前から指摘していたし、震災後は自衛隊内でも震災の教訓の分析で問題となった。ところが防衛省、自衛隊は何の対策も取らず、総務省と調節もしなかった。このため震災後に陸自に導入された最新型の「広域多目的無線機」はそれまでの周波数帯を踏襲して採用し、「いくら改良しても通じない」と現場は危機感を募らせている。

最近でも沖縄県の離島への中国の侵攻を想定した電波妨害訓練が、総務省の承認を得られないために実施できなかった。携帯電話の通信の送受信に使う電波と混信する可能性があるのが理由だ。自衛隊の無線機や電波を使用する装備は総務省の規制によって、実戦ではまったく使い物にならない可能性が高い。防衛省、自衛隊は当事者意識と能力が欠如していると言わざるをえない。

不可解な対処を繰り返す防衛省の思惑とは

先のレーザー砲にしても撃墜したドローンや砲弾による、民家などの副次被害に対する法的な検証は行われていないだろう。つまり装備化されても演習場でしか使えない「玩具」でしかなくなる可能性があるのだ。陸自のヘリ型偵察用UAV(無人機)、FFRSおよびFFOSは東日本大震災で一度も飛ばなかったが、これは信頼性が低く、副次被害を恐れたためである。これまた演習場でしか使い物にならない「玩具」だった。だが、防衛省はウェブサイトで「大規模災害やNBC環境下における偵察に不可欠」であり「開発は成功した」と自画自賛していた。

技本が開発したUGV。装備化されなかった(筆者撮影)

昨今はドローンを撃退するドローンジャマー・システムが世界中で開発されているが、その多くは電波の規制で日本国内では使用できない。軍用無線にしろ、対ドローン・システムにしろ、何ゆえ日本国内だけ使用できないかという点は疑問だ。

防衛省は装備の国内開発の言い訳に「わが国独自の環境に適した装備が存在しない」ことを理由にするが、わが国だけ、世界と隔絶した物理的、電波的特性があるのだろうか。邪推かもしれないが、総務省を悪者にすることで、これを「非関税障壁」として外国製品を排除して国内防衛産業を保護し、天下り先を保護できるから放置しているのだろうかと思ってしまう。

確かにかつての防衛庁であれば内閣の一外局でしかなく、自衛隊の管理だけが仕事だったが、政策官庁である省に昇格して多くの年月が流れている。

自分たちの任務に必要な法改正や規制緩和を積極的に行い、また現実的でスピード感を持った装備開発・調達を行わなければ同じことが続く。

これは政治家の無関心にも原因がある。政治家が防衛の実務に無関心、無知であるためにこういう問題が放置されているというのも事実である。換言すれば政治家が問題意識を持って防衛省や関係省庁に命じれば改革は可能だ。事実、小泉内閣では国民保護法制、有事法制が成立し、自衛隊を縛る法制がかなり緩和された。高尚な安全保障論をもてあそぶだけでは国防はまっとうできない。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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