勢いがあるのだか、ないのだかわからない発言である。修さんの隣で静かに3杯目のお酒を飲んでいた絵理さんがたまらずに口をはさんだ。
「願望はあるけれど焦りはない? 婚活中の女性が言うとひんしゅくを買ったりする言葉だよ。『もっとほかにいい人がいるかもしれない』という驕(おご)りベースの発言じゃないの?」
驕りベース。かなり鋭いツッコミだと思うが、修さんにはあまり響いていないようだ。
「婚活をとことんやっても結婚できなかったら、1人のままでも全然かまわないと思っていたからね。僕は誰とでもいいから結婚したいというわけじゃない。好きだと思えないと一緒にいる意味がないでしょう」
出会いは公営のスポーツセンター
急速にのろけ話になりそうな展開だ。しかし、修さんも絵理さんもベタベタするような気配はない。「あ、そうなの。あなたはそういう考えなのね。私は違うけど」といった雰囲気を同時に醸し出している。この2人、似た者カップルなのかもしれない。
前述したように、修さんと絵理さんは公営のスポーツセンターで知り合った。同じダンスのレッスンを受講していたのだ。
「20代から80代まで、老若男女がつねに40人ぐらい参加するクラスです。僕はすぐに友だちを作れるほうなのですが、彼女のほうはいつまで経っても(ひとり)ぼっちでいたんです。可哀想なので帰りがけに『お疲れ様です』と声をかけました」
絵理さんはダンスの上級者だが、女性メンバー同士のいざこざに巻き込まれてやめていた時期がある。だから、スポーツセンターのレッスンであえて仲間を作ろうとは思わなかったと明かす。一方で、「みんなと楽しく踊れればいいな」という気持ちもあった。そんなときに修さんが気さくに話しかけてくれたのだ。
「修さんはどの人とも上手に話していて、肩の力を抜いた気遣いができる人なんです。みんなで飲みに行ったときも、元アパレルで接客経験もある私としては、全員のコートをかけなくちゃと頑張ってしまいました。でも、修さんから『そんなふうに気を遣わなくていいんだよ。仲間なんだから』と言ってもらえたんです。私にないものを持っている人だと感じました」
当時、絵理さんには「煮え切らない関係」の恋人がいた。3歳年上のバツイチ男性だ。しかし、半年間も付き合っているのに、彼にとって自分は彼女なのかどうかも確信が持てなかった。結婚を急ぎたいわけではないが、このままでは自分がみじめで情けなさすぎる。
「ダンスクラスのみんなで飲み会をして、修さんと2人だけで4次会に行ったんです。煮え切らない人との恋愛の相談をしていたのですが、途中からは『修さんのほうがいいな』と思っていました」
ありがちだけどいい話である。異性に恋愛相談をする場合、その人を信頼しているだけでなく、性的な魅力も感じていることが多いと思う。どうでもいい人からの個別アドバイスなんて聞く気になれないからだ。ちょっと好きな人に愚痴を聞いてもらっているうちに、甘え心が混じった恋愛感情が高まりやすかったりもする。
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