祐志は国立大学を卒業し、有名企業に就職しているエリートだった。
「それだけに会社には優秀な人が多くて、虚勢を張り“周りには負けられない”というプレッシャーがあったんでしょうね。それがストレスになって、心の病になってしまった」
幸恵は何よりも祐志のことが好きだったし、彼の力になりたかった。結婚はいったん先延ばしにして寄り添い、回復の手助けをしようと思った。
「お互いの両親にあいさつを済ませていたんですが、私の親には彼の病状のことは言えなかったので、『今は彼の仕事が落ち着かないから』と結婚を延期したことを告げました。そのときは、完治しないまでもなんとか症状が落ち着ついたら、結婚しようと思っていたんです」
ところが、快方に向かうどころか、祐志の症状は日に日にひどくなっていった。
「一部の記憶がすっぽりと抜け落ちるようなこともありました。言ったことを覚えていないんです。朝言ったこととまるっきり反対のことを夕方に言う。間違いを指摘するとふさぎこんだりイラついたりと、感情の起伏も激しくなっていきました」
キレ出すと手のつけられない状態に
そして次第にストレスのベクトルを、幸恵に向けるようになった。
「彼が風邪を引いたときに私が向こうに行って、夕食を作る約束をしたことがあったんです。彼は夕方の6時にご飯を食べてさっさと休みたかったみたいで。ところが、私が買い物したり用事を済ませたりしていて到着が7時になった。遅れることはLINEで知らせてあったのですが、私の顔を見るなりキレ出した。その頃はもうキレると罵詈雑言が止まらなくなっていました」
「このボケが。使えねぇ女だな。もういいから、さっさと消えろ。この世から消えろ。体調をもっと悪くさせたいのか!」
それだけではない。風邪を引いて熱でフラフラしているというのに、部屋の中にある物に当たり散らし、ソファーを蹴飛ばしたり、クッションを壁に投げつけたり、手のつけられない状態になったという。
祐志がいったんキレ出すと、毎回部屋の中がメチャメチャになった。
昨年のクリスマスイブには、こんなこともあった。幸恵の部屋でクリスマスのお祝いをすることになったので、何品か手料理を作った。冷蔵庫からシャンパンを出してグラスに注ぎ、乾杯をしたときに、「来年は、入籍できるといいね」と言った。すると、その言葉にキレた。
「どうしてそうやって、こっちを追い込むんだ」
テーブルの上に並べられた料理やシャンパングラスを手で思い切り払いのけ、それらが床にぶちまけられた。料理が床に散乱し、皿やグラスが割れた。お祝いムードから一転して、部屋の中が目も当てられない状態になった。
暴れるだけ暴れると、彼は帰っていった。
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