世界経済危機 日本の罪と罰 野口悠紀雄著 ~高度な金融専門家の育成、ものづくりからの脱皮を説く
「超」整理法シリーズでお馴染みの野口悠紀雄氏による世界経済危機「超」整理とでも呼ぶべき経済書。金融危機の原因とそれが日本経済に及ぼす深刻な影響をわかりやすく説く。
低金利の円で資金を借りて、高金利のドルやユーロで運用する「円キャリー取引がアメリカ国内での住宅価格バブル・金融バブルを増殖させた。低コストの資金を全世界にばら撒いたというのが日本の罪状」と断言するところから始め、「日本が受けるべき罰は、外貨資産の減少だけではすまない。これから日本を未曾有の大不況が襲う」と予言する。
その不況の怖いところは円安を望み、それを支えてきた日本の輸出企業が不振となり、「貿易黒字がゼロになる。日本の基礎を支えている(輸出)産業が、現在のビジネスモデルでは存続できない」と続ける。小泉内閣で声高に叫ばれた構造改革が本当に必要であったのは、日本の産業構造(外需依存)であったにもかかわらず、それが果たされなかった、しっぺ返しを今、日本が受けているという。
また、日本の金融危機を救うために国庫投入された本当の金額(著者推計で39兆円)が国民に知らされないままで、米国発の金融危機の処方箋を日本が提供できるとうそぶくことのおかしさを指摘する。返す刀で米国住宅ローンの真の原因は、「格付けによっては証券化商品のリスクを完全に評価することはできなかった。にも拘わらず投資家はそれに頼った」ことにあるとし、その対策として、「投資対象のプライシング(価格付け)を行なう」ことを挙げる。
格付けと価格付け、わずかの違いのようだが、これは大きい。価格が正しく算定され、公開されていれば、それが妥当であるか否かを投資家は判断しやすい。「格付け」という大ざっぱかつあいまいな指標にプロの投資家も騙されたことを考慮すると、これはすべての証券化商品に当てはまる金言と言える。
続いて自由貿易論者の真骨頂が食糧自給問題で発揮される。「カロリーベース自給率のトリック」を明かし、「(水産資源などの)買い負けは問題の本質ではない」と説き、「コメを完全自由化せよ」と主張する。
最後に円安誘導がもはや効力を失っていることを「堤防の一〇倍の津波がくる」と警告し、不動産価格の長期的低落とイギリスやアイルランドの金融資産防衛策に学べと示唆する。驚くのは、「高度な金融専門家を育成する必要がある」として、ものづくり日本からの脱皮を強調していることだ。賛否両論があろうが、世界的に三流、四流といわれる日本の金融、投資業界への強い警鐘を鳴らし続ける。
のぐち・ゆきお
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。1940年生まれ。東京大学工学部卒業、大蔵省入省。エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経る。2005年4月より現職。
ダイヤモンド社 1575円 260ページ
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