安藤サクラ「NHKの伝統さえ破る」底知れぬ実力 やさぐれ女優が「国民的女優」になれた理由

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今じゃ懐かしい響きとなったワンセグ。NHKが2010年にワンセグ2で放送(Eテレでも再放送)していたのが、柘植文(つげ あや)の漫画原作『野田ともうします。』のドラマ版だ。主演は江口のりこ。地味で実直だが好奇心旺盛な女子大生・野田さんが繰り広げるキャンパスライフを描くショートドラマで、サクラは野田さんの所属する手影絵サークルの部長を演じた。

原作と見比べてほしいのだが、江口も安藤もそのまんま! ここまで原作に忠実で絶妙なキャスティングはほかに見たことがない。当時、まだダークサイド傾向の強い安藤をしれっと起用したNHKに盛大な拍手を送った覚えがある。

朝ドラ「まんぷく」の原点

で、サクラの一般人化を試みた後、原点に戻った主演作「ママゴト」(2016年)を用意したのもNHKだ。同作の舞台は中国地方の田舎町にあるスナック。赤別珍のソファー席に、タバコのヤニでけぶる壁と天井。2階に住居はあるが、酔いつぶれて寝るだけの部屋で荒れ放題。絵に描いたようなスナックママのやさぐれ生活。それがサクラである。

タバコを片時も離さず、秋波を送りつつも常連客をあしらう、手練れな夜の女感。あけすけなだらしなさと妙な色気を醸し出すも、悲惨な過去も背負っている。10代の頃に風俗で働き、妊娠・出産したものの、貧困から抜け出せず、幼いわが子を真夏の車内で死なせてしまったのだ。

正義を振りかざす女性警察官に心ない言葉でなじられ、過呼吸になったトラウマも。それでヘビースモーカーになった経緯がある。サクラは風俗時代の同僚(臼田あさ美)の息子(甘えん坊の肥満児)を一時的に預かることになり、物語は「疑似子育て=ママゴト」を軸に思いがけない方向へと広がっていく。

いいドラマだった。セリフも設定もキャストもよかったし、なんといってもサクラの持ち味を活かした作品だった。優しいウソで子どもを包み込む温かさに涙を誘う場面もあれば、女の幸せの定義を考えさせる言葉の応酬もあり。私が見たいサクラ+αのポテンシャルを発揮。不朽の名作だと思う。

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