日本中の「ダム」が愛されスポットに転じた背景 かつては無駄使いの象徴と言われたのに

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参加しながら考えた。そもそも逆風下で知られていなかったからこそ、今もきちんと報道されていないからこそ、ダムはここまで人気を集めるようになったのではなかろうかと。マニアという人たちは大衆が評価するものではなく、貶められているものから生まれ、やがてはそれを逆転させる力を持つものではないかと。

最近ではかつてダムを叩いていた大手新聞すらダム人気に便乗した特集記事を作り、ネット民からはその手の平返しぶりを叩かれているが、それこそがマニアの持つ逆転力だろう。

ダムの人気化から考える観光業の在り方

実際のところ、ダムアワード会場に集まるほどのマニアはそれほど多くはないはずだが、好きだという熱さは周辺に伝播する。一度くらいダムを見に行ってみようかという人が周囲に何人か出てくれば、これまで人が少なかった場所だけに増加は目立つ。

「ダムなんか見に来て何が面白いんですか」と言っていた職員が周囲からの評価に自らの仕事に誇りと自信を持ち、仕事に励むと同時に見学者の満足を考えるようになる。その努力が見学時の楽しさに伝わり、リピーターにつながる。ダムで起きている変化はそんなものではないかと思う。

さらにその変化は日本のインフラ全般に及び始めている。2016年に国土交通省はインフラツーリズムのポータルサイトをオープンさせているが、そこにはダム以外にも橋、港、灯台などのインフラを観光資源、地域おこしの起爆剤として活用しようとする姿がある。民間主導のツアーも増えた。

ダムという、昔からあったものの見えていなかったものを見えるようにしたことで1つの産業が立ちあがったと考えると、学ぶべきことは多い。これから日本が頼ることになろうであろう観光などのビジネスにおいては、今見えていないニーズや負をどれだけ顕在化させていくかが勝負。

自分たちが売りたいモノを売るのではなく、欲しい人の視点で売っていくことも大事と考えると、ダム逆転の経過にはそんなノウハウが詰まっている。

最後に1つ、この記事をここまで読んでくださった方にこっそり(大嘘)ご教示しよう。2019年2月24日から天皇陛下の御在位三十年を記念した特別なダムカード4種類が配布されている。5月31日までという超期間限定品だ。記者発表なくひっそり始まったダムカードがこのような使われ方をされる日が来るとは……。12年の歳月は物事を変える。

「天皇陛下御在位三十年記念ダムカード」は4色あり、鬼怒川上流4ダムはすべて回ると各色がそろう。配布開始日には通常の10倍以上の人が来たダムもあったそうだ(写真:三橋さゆり氏提供)
中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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