日本中の「ダム」が愛されスポットに転じた背景 かつては無駄使いの象徴と言われたのに
2007年は『工場萌え』などの書籍が出版され、ジャンクションや団地、廃線などのインフラに注目が集まった時期だったこともあり、その文脈からの取材もあった。次第に深夜番組などを中心にメディアに登場することが増え、5年後の2012年頃からはカードの種類が急増している。
当初は国土交通省、水資源機構が管轄する111ダムからスタートしたのだが、人気にあやかろうと都道府県や電力会社などが作り始め、いまや数百種類。2012年には『ダムカード大全集』なる書籍も出版された。
アワード人気化の根底にあるのは「義憤」
2014年からはその年に活躍したダムを顕彰する「日本ダムアワード」なるイベントも開かれるようになった。関心を持ち始めた当初は自然の中にある巨大建造物の違和感、非日常感に惹かれたものの、知るにつれ、ダムとその中の人たちが社会や地域に対して果たす役割、意味の大きさに気づくようになったという萩原氏が始めたものだ。
興味のない人にはどれも同じように見えるかもしれないが、ダムは1つずつ、すべて異なる。立地、管理者が違うのはもちろん、地形、地盤、目的、工法、形、歴史などが異なり、寺社仏閣や城などと同じように知れば知るほど奥が深いものである。洪水時、渇水時にできることももちろん違う。
また、洪水調節では雨水を貯めながらも放流したり、水系のダム全体で連携して調節に当たるなど高度な技術と不眠不休の努力が必要だが、それがあまりにも知られていないという、ある種の義憤が根底にある。
「台風時、『上流のダムが放流しています』と、川の氾濫の原因がダムにあるかのような口調のテレビ報道を見ました。ですが、そのダムは発電専用で、洪水調節機能はなく、雨水が流入してきたら流すことになっているのに、マスコミは何もわかっていない。だったらわかっている人たちだけで頑張りを顕彰しようと始めたのが日本ダムアワードです」
6年目の今では150席が2日ほどで売り切れる人気イベントに成長。放流やライトアップの見事さのように誰が見てもわかるものに加え、低水管理、洪水調節など水量調節の技までの5部門の賞が設定されている。
筆者も2018年12月に行われたアワードに参加したが、参加者の熱量は圧倒的。沖縄から北海道までの、山中の不便な場所にあるダムを多くの人が訪ねているという事実に驚いた。しかも、アワード後、選考委員はトロフィーを渡しに自腹(!)で受賞ダムを訪れるのだという。
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