「いだてん」受動喫煙への抗議は何が問題なのか 「共感を得るか信用を失うか」の決定的な違い

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2016年の「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(フジテレビ系)には、日本介護福祉士会が「ヒロインが介護施設で過酷な労働環境と労働条件を強いられ、ハラスメントをされている」などの意見書を送付。しかし、世間の人々が同会に「実際の労働問題を隠蔽しようとしている」などの批判を寄せたことで、フジテレビは「監修も取材も十分しているため、貴重な意見として参考にさせていただく」と受け流して終結させました。

昨年放送された「ブラックペアン」(TBS系)には、日本臨床薬理学会が「治験コーディネーターの描写が実際の仕事とは異なる」と抗議。しかも、「現場で努力する人々の心を折り、侮辱する」「フィクションとはいえ患者に不信感を与える内容であり、臨床試験に今後協力してもらえなくなる」という危機感に満ちたものだったのです。しかし、人々の反応は、「認知度の低い職業でここまで現実と違うのはひどい」と「しょせんフィクション前提のドラマ。本気で信じる人なんているのか」の両論であり、ゆるやかに収束していきました。

3つの事案から、制作サイドと各団体の2者だけでなく、人々の影響力が大きくなっている様子がわかるのではないでしょうか。「ネットの発達・浸透によって発言の場を得た世間の人々を味方につけられるか」が重要な時代となっているのです。

気をつけなければいけないのは、「どんなに正しいと思っていることでも、伝え方次第で、申し入れや批判をした側がブーメランとなってたたかれる」というリスクが増していること。とくに各団体の要職に就く人は、「言動に世間の空気を読む冷静さが求められている」とともに、「申し入れや抗議の際は、どのような伝え方なら人々の理解を得られるか」を考えなければいけないのです。

安易な批判が「ドラマの有料化」を進める

最後にドラマを取り巻く、難しい状況を挙げておきましょう。

地上波での放送は、公共性に基づく視聴者やスポンサーへの配慮が求められ、新たなことやタブーに切り込んだ見応えのあるドラマを手掛けるには、「挑戦しよう」という勇気が必要。しかし、SNSの発達で個人批判にさらされやすく、なかには「スポンサーの不買運動をしよう」という脅しのようなものもあり、制作サイドは苦しい立場を強いられています。

もしこのまま個人や各団体が申し入れや抗議の声を上げ続けたら、制作サイドは挑戦することなく無難なドラマを作ろうとするでしょう。実際、近年では中高年層をメインターゲットにした一話完結の事件ドラマが過半数を占めるようになりつつあります。

この状況が進めば、地上波のドラマが「気軽にサラッと見られる無難なもの」ばかりになり、「新しいことやタブーに切り込んだ見応えのあるドラマは、動画配信サービスやCSなどの有料コンテンツでしか見られない」という状況になりかねません。

無料で見られるドラマの多様性を守っていくためには、個人も各団体も「ドラマはフィクションであり、嫌なら見なければいいというだけのこと」とみなし、できるだけ「批判の声を上げない」という姿勢でいたいところです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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