「いだてん」受動喫煙への抗議は何が問題なのか 「共感を得るか信用を失うか」の決定的な違い

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加えて、申し入れ書には「近年のテレビ・映画などにおいては、過去の時代の再現においても、当時では日常的であったが、現代では、職業・身体・民族等への差別などと受けとられる語句・表現は、使用されなくなり、別の表現に置き換えられるようになっています」「今は国会で受動喫煙防止法が成立したように、喫煙はしても、人にタバコの煙を吸わせてはいけないということが、世界中の常識です」という自らの正義を裏づけるためのような記述がありました。今回の申し入れ書は、「自らの正義をアピールするほど、人々の心は離れていく」というビジネスセオリーから、かけ離れていたのです。

自尊心の高さは、結びの2文にも表れていました。今回の申し入れは突然のものだったにもかかわらず、「※ご回答は本文書到着した後、1週間以内にお願いします」と期限を設定した上で、「※ご回答内容は、公開の予定です」と脅しのような言葉で締めくくられていたのです。

どれほど抗議したい気持ちがあったとしても、ネットの普及で衆目環視となった現代のビジネスシーンでは、「相手への尊重がない」「一方的に決め付ける」のはNG。それは「自分は正義、相手は悪」という決め付けの証しとみなされ、批判につながってしまうのです。

同法人のホームページトップには、「思いやりの心を育んでいこう」と書かれていました。今回の件は、「一生懸命やっているからこそ、使命感があるからこそ」の申し入れだったことは想像に難くありません。しかし、受動喫煙をなくすために思いやりの心を持つのも、ドラマ制作者の立場や意図を思いやることも同じではないでしょうか。

今回の申し入れに批判が集まっているだけで、同法人の理念については多くの人々が賛同するでしょう。だからこそ同法人には、いち放送局とのやり取りにこだわらず、受動喫煙の被害に悩んでいる人に寄り添うような、生産性の高い活動を期待しています。

過去にもあったドラマへの猛抗議

古くから、誰でも無料で気軽に見られるテレビドラマには、PTAを筆頭にさまざまな団体からの抗議や申し入れが少なくありませんでした。ここ最近の5年間でも、いくつかの事例が見られます。

2014年の「明日、ママがいない」(日本テレビ系)には、「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を設置する慈恵病院(熊本市)が「養護施設の子どもや職員への誤解、偏見を与える」として放送中止を申し入れたほか、全国児童養護施設協議会や全国里親会なども猛抗議。世間の人々も非難の声を上げたほか、スポンサーがCMを自粛するなどのダメージを受け、児童養護施設の描き方をマイルドにすることでなんとか最終回にたどり着きました。

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