親はよくきょうだい同士でも比べます。ただ比べるだけでなく、比べながら叱ってしまうことがあります。例えば、「お兄ちゃんはダメだね。妹を見習いなさい」「なんであなたはこんなこともできないの? お姉ちゃんはちゃんとできたよ」などです。
こういう言い方は子どもにとって本当に嫌なものです。親としては、「同じきょうだいなのになんでこの子はできないの?」という思いもありますし、比べて叱ることで発憤させようという意図もあります。でも、これでやる気が出る子などいません。それどころか、深刻な弊害がたくさんあります。
比べて叱られた子は「どうせ自分なんかダメだよ」と感じて、自分に自信が持てなくなります。言い換えると、自己肯定感が持てなくなるということであり、これが続けばやがては自己否定感に凝り固まってしまうことになります。
さらには、「僕はダメな子だと思われているんだ。お父さんもお母さんも僕なんかより妹のほうが好きなんだ。僕のことなんかどうでもいいんだ」と感じてしまう可能性もあります。このように親の愛情を疑う気持ち、つまり愛情不足感を持つようになってしまうと、子どもは必要以上に反抗的になってしまいます。
また、比べられた相手を恨む気持ちも出てくるので、きょうだい仲にも影響します。それが生涯にわたって続くきょうだいの不仲につながることもありえます。実際に、親の不公平のせいできょうだいの仲が悪くなった例はあちこちにあります。きょうだいの仲をよくしてあげることは、親が残す最大の財産というべきものであり、そういう意味でもきょうだいを比べて叱るのは絶対にやめるべきです。
思春期以降、兄と口をきかない事態に
30代の公務員Sさんは、まさにこれに当てはまります。彼は2人兄弟の次男として育ちました。Sさんの兄は勉強も運動もよくできて、積極的かつ社交的でリーダーシップもあり、一家の期待の星だったそうです。それに対して、弟のSさんは勉強も運動もごく普通で、性格は引っ込み思案でした。それで、何かにつけできる兄と比較され続けました。Sさんは図工が好きで成績もよかったのですが、それで褒められたことはありませんでした。
授業参観の後では、「お兄ちゃんはいっぱい発表してたよ。なんでお前は発表できないんだろうね」と言われ、運動会のときは「お兄ちゃんは一番なのに……。お前ももっと頑張らなきゃダメだよ」と言われました。万事こんな調子でしたので、Sさんは兄のことを疎ましく思うようになりました。そして、思春期以降はほとんど口をきいていないそうです。
念のために言えば、比べて褒めるのもよくありません。例えば、「お兄ちゃんはだらしがないけど、弟のあなたはしっかりしてるね」などです。こういうことを言われると、相手をさげすむ気持ちが出てくる可能性があります。あるいは、物事をより深く考えられる子なら、「自分がいない所では自分のことを悪く言われているかも」と思う子もいるでしょう。いずれにしても、兄弟を比べるのはよくないのです。
次に、親はわが子を自分が子どもの頃と比べます。私の経験ですと、とくに、生活習慣がしっかりしている人、律儀で真面目な人、整理整頓が上手な人、物事を要領よくテキパキできる人、決められたことができる人、などはこの傾向があります。というのも、これらの人たちは子どもの頃からできていたので、無意識のうちに「できて当然」と思い込んでいるからです。
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