「3年A組」のヒットが示すテレビの希望と絶望 思い切って挑戦するか、安全な橋を渡るか

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前述した希望は、すべて「視聴率が取れる」という観点からのものであり、テレビマンたちがいまだそこに拘泥していることの表れ。例えば、「視聴率が取れないから」と学園ドラマを制作せず、「視聴率を取るため」に1話完結の事件ドラマが量産されています(現在プライムタイムで放送中の過半数が1話完結の事件ドラマ)。

その点「3年A組」は、1話完結の事件ドラマではなく、大きな1つのテーマを追う長編サスペンス。「教師が生徒を監禁する」という苦情が殺到するかもしれない過激な設定も含め、「リスク覚悟でチャレンジする」という姿勢は他局にないものであり、もともと成否にかかわらず評価されてしかるべき作品だったのです。そんな姿勢があったからこそ、テレビよりネットの接触時間が長い若年層にも、「これはほかのドラマとは違う」とウケているのではないでしょうか。

これは裏を返せば、ほかのテレビマンたちが、いかに「学園ドラマは見てもらえない」「熱血教師やお説教は受け入れられない」「1話完結でない長編では厳しい」という思い込みや決めつけに基づく悲観論を持っているか、ということ。楽観論にはなれないとしても、「挑戦すらしない」「挑む前に諦めてしまう」という悲観的なムードこそが、テレビ業界の抱える最大の問題なのかもしれません。

テレビマンにこそ必要な「Let’s think!」

しかし、学園ドラマであり、熱血教師のお説教である、長編の「3年A組」が、見事に結果を出しました。

さらに昨年を振り返ってみると、最も反響を集めたドラマは、「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)と「今日から俺は!!」(日本テレビ系)の2作でした。事実として両作は全話平均視聴率が1桁であるにもかかわらず、私も審査員の一人である「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」のグランプリに該当する「作品賞」を受賞。視聴者や審査員たちから作品の質以上に評価されたのは、「新しいものへの挑戦」「世間の反響を集めた」でした。

つまり、テレビ業界以外の人にとって「視聴率など関係ない」「新しいものや見たことのないものが見たい」ということ。テレビマンによる視聴率に拘泥したマーケティングが、いかに視聴者感覚と乖離しているかがわかるのではないでしょうか。

一方、1話完結の事件ドラマは、8~15%の視聴率は取れても、ネットニュースにすらなりにくいほど話題性は乏しく、視聴したにもかかわらず「話を覚えていない」という人が少なくありません。一定のニーズがあることに疑いの余地はないものの、「ワンパターンな展開を気軽に見る」「1話見逃しても気にならない」。だから「メインターゲットが中高年層になる」という、かつての時代劇に近いポジションなのです。

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