大学入試で「デジタル試験」導入は可能なのか 安くて判定容易、「紙のテスト」の意外な長所

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試験では暗記力だけでなく、論理的思考力や文章力なども、他人の助けが借りられないようにして、本人の能力を問うているが、タブレットなどのデジタルデバイスで思考力や文章力を問うのは難しい。ネットに接続できてしまっては、問いたい本人の能力を適切に問えないことは言うまでもないが、デジタルデバイス上の辞書を用いて漢字変換ができてしまう、日本語ならではの問題もある。かといって、漢字が入力できないような形で受験生に解答させるわけにもいかない。

確かに、英語ならその心配はないだろう。また、択一問題だけを出題するなら、デジタル技術を使って可能だろう。しかし、日本語の語彙力や文章力を問う場合、現在の技術では、紙に取ってかわる試験手段は容易に見出せない。

ちなみに、ネットに接続できる環境で解答することを前提とした入試問題にすればよいという考えもあろう。ネットに接続できる環境で発揮できる能力も大事な能力である。しかし、ネットに接続できない形で、高校までの学習の習熟度を試すことも重要な意味を持つ。

ペーパーテストのもう1つの長所

筆者は、ペーパーテストが最善だとは思っていない。紙でなく、何らかのデジタルデバイスで、現在の一般入試で問うている能力を問える方策が、近い将来見いだされることを願っている。ただ、それを実現するにはまだまだ障害は多い。

もう1つ、デジタルデバイスにないペーパーテストの長所は、廉価で安定して実施できるという点だ。一斉に大人数の受験生を集めて入試を実施するには、デバイス購入のための巨額の投資が必要となる。1回の受験で数万円という受験料では赤字になってしまうかもしれない。デジタルデバイスを使って入試ができたとしても、公正な試験環境を担保するには、試験監督者や試験会場の保安のための人件費も必要だ。おまけに、デジタルデバイスは日進月歩で、数年で更新投資が必要となる。

加えて、デバイスで入力した情報が絶対に損なわれてはならず、誤作動が起きてはならない。同じ試験環境で一斉に実施することで、公正な試験環境を担保している一般入試では、試験手段の安定性も問われる。

民主主義の根幹をなす選挙でも、紙の投票用紙が用いられ、投票の電子化は進んでいない。大規模で多数の有権者がいる選挙では、入力情報の確実な保存と誤作動がないことが担保されないと、電子投票を採用できない。これは大学入試と似ている。入力情報が損なわれないことは当然として、選挙や大学入試の一般入試にとって誤作動は致命的だ。

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