健康論に振り回される人を襲う「不幸な悩み」 大切なのは心の健康を確保することだ

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──メディアの責任は大きい?

大きいね。エビデンスの有無さえ明らかにしてくれれば、何を言ってもいいんです。「説得力は乏しいけど、いいと思ってやっている人が多い」とかね。有酸素運動をしろとか、体を冷やすなとか、安くて副作用がない健康法なら、お金が絡まないのでエビデンスは不要です。逆に、高くて危険な治療はエビデンスが必要。そこがごっちゃになって流通している。

──例えば、不眠自体は問題がないのに、誤った情報で患者が生まれている?

一部は正しい。不眠で病気になる人はほんの少しですがいますから。悲しいかな、われわれの資本主義社会は、具合の悪い人が1人いればその裾野を広げることで儲けられる。患者には、眠れないと死ぬって思って薬を飲んでいるならやめろと言っていますが、ほとんどの医者は製薬会社の言うことをそのまま受け入れていて、そこにお金が動いているという認識もないと思う。

自分が楽しいことをするのが心の健康に

──健康情報を取捨選択しない側にも問題はありますね。

新見 正則(にいみ まさのり)/1959年生まれ。慶応大学医学部卒業、移植免疫学でDoctor of Philosophy取得。2013年にイグ・ノーベル賞受賞。現帝京大学医学部外科准教授、愛誠病院漢方外来統括医師。医療と健康の「プラットフォーム屋」としても活動。著書多数(撮影:今井康一)

外来で診てると、死んでもいいから健康でいたいって感じの人はいます(笑)。リスク評価をしていないんです。交通事故で年に約3500人が死んでいて、そのリスクを引き受けて外出している反面、これは体に悪い、あれも体に悪いなんてやっているのは変だな。

──アンチテーゼが、「どうせ死ぬんだから、それまで楽しく」。

大切なのは心の健康。必ず死ぬということを認識し、自分が楽しいことを、リスクを承知してやるのが、心の健康につながる。危険なことのほうが楽しいでしょ、冬山に登るとか。僕はトライアスロンをやるけど、海で溺れたり、自転車で骨折したりとかなり危ない。でもやる。お酒だってたばこだってそうですよね。人はリスクのあることにわくわくするんですよ。

──患者に「死」はタブーでは?

そこは、話し方です。「あんた、いつ死んでもおかしくないよ」って言えばびっくりするけど、その後に「少し前に母が死んで、次は俺の番なんだ」と続けると「あ、おまえも死ぬ番か」って感じになり、何も言いませんよ。30年前の僕には言えません、僕の番はまだ先だったから。

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