「奇跡の靴」をつくった徳武産業の感動的な話 車いすに乗った青年がこぼした涙の理由
なんでも中学2年生のとき、病気で足が変形してしまって以来、履ける靴がなくなって、ずっと靴下のままで通しているそうです。十河さんと会ったとき、青年はすでに28歳になっていましたから、なんと14年間も靴を履いていなかったことになります。
十河さんはすぐにパーツオーダー担当の社員を呼び、彼の足の採寸をさせました。そして、その場で足に合う靴をつくってあげるよう指示をしました。その靴は1時間くらいでできました。
「履けるかなあ」
最初、青年は半信半疑でした。でも社員が彼の足に靴を履かせた瞬間、彼の目がみるみる潤んで、涙がこぼれ落ちたのです。14年間、外出のときもずっと靴下のままですごした足。その足に靴が履けた瞬間、万感の思いがこみあげたのでしょう。そばにいた十河さんたちも、思わずもらい泣きをしてしまいました。
外出するときは靴を履く。そんな当たり前のことさえ、できない人もいるのです。長く靴下のまますごしてきた彼にとって、自分の足に合う靴が見つかった喜びは、十河さんたちが想像する以上のものだったに違いありません。何度も何度も自分の足元を見つめ、靴を履いた足をうれしそうにながめていた青年。彼はその靴を履いて四国を回り、かねて憧れていた坂本龍馬像を見てきたそうです。
「ぼくのはけるくつが見つかったよ」
それからしばらくしてからです。会社に大きな包みが届きました。差出人を見てみると、車いすに乗ったあの青年です。「何だろう?」と包みの中を見てみると、1枚の水彩画が入っていました。車いすに乗った青年が靴を履いて笑っている絵と、その横に「ぼくのはけるくつが見つかったよ」という言葉が添えられていました。
彼が自画像を描いて送ってきてくれたのです。絵の中の青年は車いすに乗って、ベージュの「あゆみ」を履き、うれしそうにこちらを見て微笑んでいました。今、その絵は額縁に入れて、本社の玄関に飾ってあります。
出社するたびに、「あゆみ」を履いた額縁の中の青年が十河さんに微笑みかけてきます。
「ぼくのはけるくつが見つかったよ」
その絵は徳武産業にとって、大切な宝物の一つになりました。
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