企業は若い人の能力をもっと有効に使うべきだ 人手不足、高齢化時代は質の向上も重要だ

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厚生労働省の平成30年度雇用政策研究会報告書によれば、日本の総労働時間に占める、パートタイム就業者と60歳以上のフルタイム就業者の労働時間の割合は、1970年には全体の11.3%に過ぎなかったが、2017年には約2倍の21.8%に達している。

高齢化が進む中で就業環境がより柔軟となり、さまざまな働き方が可能になって、高年齢者の就業がさらに進んだり、子育て中の人たちの労働参加が進んだりすることは期待できる。

ただ、こうして増える就業者のほとんどは、60歳以上のフルタイムの就業者か、パートタイムの就業者(全年齢層)だ。その結果、就業者数は増えるものの、就業者1人当たりの労働時間は短くなったり、時間当たり生産性が低くなったりする。単純な労働時間で測った労働投入量は減少し、質まで考慮するとかなりの減少になってしまうだろう。

日本企業は若い労働力を無駄遣いしてきた

人口高齢化が進む中で日本経済は人手不足の状態が続くおそれが大きいが、特に、若い労働力は非常に貴重になっていくはずだ。しかし、日本の組織の多くは、若い労働力が豊富だった時代のまま若い人材の無駄遣いが続いている。採用直後の若い社員の使い方を抜本的に改める必要がある。

40年近くも昔の話ではあるが、筆者が就職して最初にやらされた仕事は、コピー取りだった。当時はまだコピー機の性能も悪く、大量の書類のコピーを手作業でホチキス留めするという単純作業を延々とやらされた記憶がある。

日本の組織は昇進・昇格の速度が海外の企業に比べて遅く、若い間に責任のある仕事が与えられないということがしばしば指摘されてきた。今でもこうした状況は大きくは変わっていないようで、企業や官公庁など日本の組織は全体的に若い人の能力を無駄遣いしているだけでなく、優秀な人材が流出してしまう原因にもなっている。

人口構造の高齢化ははるか以前から進んでおり、若い労働力の不足は徐々に進んでいた。しかし、1990年代はじめのバブル崩壊や金融危機、ITバブル崩壊やリーマンショックなど相次ぐ経済ショックが起こり、就職氷河期が長く続いたこともあって、人手不足は顕在化せず、日本社会における問題の認識や対応はひどく遅れてしまった。

若い人に雑用をやらせたり、多くの人にさまざまな仕事を経験させたりするという人事制度は、若年労働力が豊富だった時代にはそれなりの合理性もあったが、今ではとてももったいない人材の使い方だと言わざるをえない。また人口の半分を占める女性の能力が組織の中で十分発揮できる状況にないというのも、人材不足の中ではまったく非合理的だ。外部から必要な人材を調達するよりも、組織内で未活用の人材を活用するほうがはるかに手っ取り早いはずである。

労働力がますます希少になって行く中で、日本の組織は人の使い方を大きく変えていく必要がある。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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