日本の1人当たり労働時間は減少しているが、働き方改革による長時間労働の是正だけではなく、就業者の構成の変化も大きな要因だ。
2004年度から改正高年齢者雇用安定法が施行されて、企業には65歳までの雇用の確保が義務づけられた。これに対して、多くの企業では60歳で定年退職した後に、再雇用や嘱託などの短時間労働のポストを提供することで対応したので、60歳以上の就業者の1人当たり労働時間は60歳未満の層に比べて少ない。人手不足の深刻化に伴って、定年年齢を65歳まで引き上げる企業も増えているが、個人差は大きいものの加齢による体力の低下もあって、若い頃と同じようには働けない人がどうしても増えてしまう。
また、子育てのために退職するのではなく、働き続けようとする人たちも増えている。その中には、子育てとの両立をはかるために、フルタイムでなく、より少ない出勤日数や短い就業時間の雇用形態を希望する人も多い。このため近年増加している就業者の1人当たり労働時間は、60歳未満のフルタイムの就業者に比べて、かなり少ないとみられる。
SNA統計(国民経済計算)を使って、日本全体の労働時間を試算してみると、就業者全体では1990年台半ばに比べてかなりの減少となっている。就業者数は過去最高になっているものの、1人当たりの労働時間が短くなっているため、日本全体の労働時間(労働投入量)は大きく減っている。
あまり高齢になると労働の質も下がらざるをえない
この推計は雇用者と就業者(雇用者以外に自営業者、家族従業者が含まれる)で1人当たりの年間労働時間が同じだという仮定を置いた、かなりおおざっぱなものだが、内閣府は2005年から2016年までの間について、就業者1人当たりの年間労働時間を参考系列で提供しており、これを使った推計(グラフの「参考」)は上記の推計とほとんど動きが変わらない。
さらに、高年齢の就業者の労働の質は若い人たちとは同じではないという問題もある。若い労働者の減少を高年齢者の就業率が高まることで補おうとしても、高齢者の1時間の労働は若い労働者の1時間の労働とは、まったく同じものとは言えないだろう。
単純労働の場合には、人による差はあっても、機械と人間の違いほどではなく、人海戦術は有効だろう。しかし、業務が複雑化していけば、それだけ個人差は大きくなる。創造性や柔軟性が求められる仕事では、誰がやっても同じというわけにはいかない。残念ながら筆者自身も加齢によって次第に仕事の効率が低下していることは認めざるをえない。
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