年収180万円程度の日本人が「激増」する未来 2020年代には世界で格差の拡大が加速する

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縮小

でもこのような話をすると、

「中流階級が崩壊すると、経済全体が縮小して資本家も困る。だから中流は崩壊することはないのではないか」

という反論が出てきます。

過去20年間でグローバル経済が発展した最大の理由は新興国を中心に中流階級の世帯数が倍増したことです。20世紀終わりには世界の中流層は先進国を中心に2億世帯程度でした。それが直近では中国やインド、ロシアやブラジルといった新興国で中流層人口が増え、世界の中流層は4億世帯に増えています。

中流層の所得が手に入ると、その人たちは家を買い、車を買い、高価な家具や家電製品を買いそろえます。先進国の生活水準の人が増えれば、グローバル企業はそのマーケット拡大で業績を上げます。これがゼロ年代、10年代の世界の繁栄を支えてきた出来事です。

その中流層が消滅して、「世界中が新下流層になってしまったとしたら、2020年代の世界経済はいったいどうなるか?」。そのことを考えたら、企業の側もそんなに安易に給与を下げられないのではないかというのがこの反論なのです。

二分化された経済の行く末は

ただ、ふたつの論拠からこの反論にお答えすることができます。

ひとつは給与水準というものは市場の神の手によって決まるものだということです。世界中の企業が計画的に「給与水準を上げたほうが市場は大きくなるからそうしよう」などと考えて行動することはありません。自然になるようになるというのがひとつめの論理です。

もうひとつは、たとえ中流層が消滅しても、世界中で新下流層が拡大すれば、グローバル企業の業績は上がるということです。先進国にとっては中流が消滅し多くの世帯が年収180万円程度の新下流層になってしまうのは国内市場の縮小につながりますが、新興国ではむしろこの新下流層がこれからの20年間において、10億世帯レベルで増加する可能性があります。するとグローバル企業にとってはむしろ世界全体での業績環境は向上します。「彼らは困らない」のです。

ただ、結論として世の中は新下流層という新しい階級と、資本家階級に二分化されるようになります。ではどうすればいいのでしょうか。

考えられる唯一の最適解は、資本家の側に回るということです。荒唐無稽なアイデアに見えるかもしれませんが、そうではありません。グローバル企業は主にアメリカと中国の企業に分かれているのですが、このうちアメリカの企業の株式は日本人でも買うことができます。

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それは例えばアメリカ株全体に分散投資した投資信託のような商品です。これを買うことで、わたしたちは資本家の側に回り、グローバル企業の成長の利益を得ることができるようになります。つまりこれからの未来において資本家と労働者の間の格差が広がるのであれば、手持ちの資金を資本家の側に投資をすることが大切なのです。

もう少しわかりやすく言えば、ほとんどゼロに近い金利しかつかない銀行預金をやめて、iDeCoやつみたてNISAのような投資信託の運用を始めること。それもグローバル企業に投資する投資信託を少しずつ積み立てていくこと。こういった行動を取ることが、これから格差が拡大する未来に抵抗する非常に重要な視点だというのが、この話の最後の結論です。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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