トヨタ「スープラ」が17年ぶりに復活する意味 今というタイミングに要素が全てかみ合った

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当初は発売の予定はなかったというスープラ。しかしながらアメリカのトヨタのデザインスタジオ「CALTY」では、若手デザイナーのチームが次期スープラをイメージしてデザインコンセプトを作り上げていた。2014年のNAIASに展示された「FT-1」がそれである。

しかもこのチームは周到にも、このFT-1を人気ゲームソフト「グランツーリスモ」に収録し、ゲーム内で実際に走行することを可能にした。豊田社長はグランツーリスモでこのFT-1をドライブ。そして「GAME OVER」、つまり白旗を上げて、開発にゴーサインを出したのだという逸話を、プレスコンファレンスで明かしている。

もっとも、実際にはトヨタは提携関係にあるBMWと、すでに2012年から車両の共同開発に関するミーティングをスタートさせていた。その責任者は、86でスバルとの共同開発によりトヨタで久々のスポーツカーを世に出し、のちにスープラのチーフエンジニアとなる多田哲哉氏である。時系列的に見れば、このプロジェクトにFT-1のデザインが合流して、今の姿に至ったと見るべきだろう。

もっとも多田氏によれば、このデザインは当初から自動的に採用が決まっていたわけではなく、実際には複数案からのコンペの結果として選ばれたのだという。

とはいえ、単にファンの熱意にほだされてスープラにゴーサインが出たわけではない。さらにもう1つ、スープラ復活を後押しした大きな要素がある。それが「GR」ブランドだ。

トヨタはかねてより展開していた、メーカー純正コンプリート車とも言うべき「G'Sports」シリーズを2017年よりGazoo Racing Companyの手がける市販スポーツモデル「GR」シリーズへと名称変更して展開し、そのネームバリュー向上を図ってきた。このGRも、まさにクルマをコモディティー化させないためのブランドである。

ミニバンやハイブリッド車までを彼らが「スポーツカー」と呼ぶのには、そういう誇らしい気持ちで、コモディティーとしてではなく、愛をもって乗れるクルマ「愛車」にしたいという意味が込められている。

GRブランドでデビューするスープラの意義

頂点にはToyota Gazoo Racing(トヨタ・ガズー・レーシング)として戦うル・マン24時間を含むWEC(世界耐久選手権)、WRC(世界ラリー選手権)があり、その直系のスポーツカーとして、世界的にハイパフォーマンスカーとしてのネームバリューが浸透している(トヨタにとって唯一の存在である)スープラを、新たに“GRスープラ”として据える。それによって既存の、あるいはこれから登場するトヨタの市販車ベースのGR、GR SPORTといったモデルは、まさに同じ血統にあるものと見なされることになる。

日本、そしてヨーロッパでは浸透してきたToyota Gazoo Racingの存在。しかしながらアメリカは、まだそういう状況にはなっていない。アメリカで最も人気の高いレースであるNASCARにスープラで参戦するのは、まさにそうしたイメージを補強するため。当然トヨタはヨーロッパ、アメリカでもGRブランドを展開していく心づもりであり、スープラはその尖兵という役割も果たす。

クルマをコモディティー化させないこと、ファンの熱い思いに応えること、BMWとの提携関係、そしてGRブランドの世界展開……。

スープラが今というタイミングで、しかもGRという傘の下でデビューすることは、さまざまな要素がすべてかみ合った結果だということがわかる。スープラは、まさに必然として2019年に復活を果たしたのである。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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