講演会場には130人ほどの市民が集まっていた。これまでの同様の講演に比べるとネクタイ・ダークスーツ姿の人が少なく、若者が目立った。客席のざわめきと表情から、高い関心と熱意、そして少しの不安が伝わってきた。
控え室で、やはり講師を務める平原匡さんに再会した(2016年8月25日付記事「コンテナ店舗で挑む上越妙高駅前改革の勝算」参照)。北陸新幹線・上越妙高駅前でコンテナ商店街「フルサット」を経営してきた体験を話すという。
講演で筆者は、ここ数年掲げているキーワード「人口減少社会の再デザイン」をテーマに1時間ほど話した。内容のベースは、各地で約20年間、見聞してきた新幹線開業の実例だ。
新幹線は活用してこその「手段」であり、建設自体を目的化してはいけない。観光客の誘致も大切だが、基盤に置くべきは地域社会そのものの再デザインではないか。その起点を観光スポットや名産品にとどめず、市民の暮らしや喜び、生活上の価値観に広げてはどうか。大都市圏との時間距離短縮もさることながら、若者らがよりスムーズに多地域を行ったり来たりするインフラとしての機能や社会デザインが重要ではないか。そして、すべての出発点は、自らが住む地域を知り、近隣とのつながりを再発見し、再構築を図ることではないか――。
高校生も交え、街の将来像をめぐり活発な議論が続いた。
地元の関心はもっぱら「小浜開業」
事前の打ち合わせ段階から少し意外だったのは、小浜市の皆さんが、敦賀開業よりも、まだしばらく先に控える「地元開業」にもっぱら関心を向けていたことだった。
駅周辺をどう整備するか、アクセスをどうするか、そして駅名は。質疑でも、これらの話題が中心になった。しかし、予定では完成まで30年近くかかり、地元の要望が通ったとしても、十数年先のことになる。一方で、間近に迫った敦賀開業は、あまり視界に入っていない様子だった。
だが、小浜市と同様、新幹線から離れた街にも恩恵は及ぶ。新青森駅から奥羽線で30~40分ほどの距離にある青森県弘前市は、少なくとも観光面では、新青森開業で最も潤った街、という定評がある。
単純に比較はできないにせよ、小浜市も敦賀開業を「地元開業」と位置づけ、さまざまな準備に着手しない手はない。何度かそう繰り返し、次第に趣旨が伝わっていった感触があった。平原さんも「フルサットは新幹線駅に降りたお客さんと地域の結節点」「駅前は地域のショールーム」と強調した。
地域の内と外とで、新幹線駅を中心とする「頭の中の地図」は異なる。旅行者が意識する「駅勢圏」は、駅舎の改札・通路の範囲から県境をまたぐ広域まで、旅行目的に応じて極端にエリアが異なるだろう。それをよそに、地元の人や組織は市町村境で意識や流れを区切りがちだ。
狭い「地元意識」や縦割り感覚を振り回しても、得られるものは少ない。むしろ、これらの感覚を一掃して、「頭の中の地図」や地域の内外のコミュニケーション感覚・スキル、生活上の価値観を再構築する営みが、新幹線開業対策のポイントではないか。
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