外国人の医療保険悪用より対策すべき大問題 病院は外国人患者にどう対応すればいいのか

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その数年後に行った調査でも、未収金は保険診療で入院治療を受けた日本人患者が全体の7割を占めていた。1人当たりの未払い金は約20万円で、保険診療と自費診療による違い、外国人と日本人による違いはなかった。

入院した外国人の中には急性心筋梗塞やくも膜下出血など保険適応疾患でありながら、保険未加入のために高額な自費診療になっているケースも含まれていた。当時、この病院では自費診療による外国人患者の医療費は慣例的に診療報酬点数総額の150%を請求していた。

ブラジル人就労者245人を対象にした健康行動調査(2005年、筆者らが発表)では、過去1年間に医療機関を受診した人は全体の54.3%で、その中の31.0%が医療機関に対して不満や不便があると回答していた。不満の内容は医師の診療行為に対するものが多く、コミュニケーションなど言語的な問題が要因の1つと考えられた。

また、日本の公的医療保険の加入者は48.2%で、その内訳は国保が42.4%、被用者保険はわずか5.7%であった。未加入者のうち35.7%が「入りたいけど加入できない」と回答していた。入管法改正から15年が経過していた2005年でもこのような実態だった。

翌2006年、ブラジル人市民に話を聞いたところ、自治体への要望として、「市や病院、クリニックに通訳者をおいてほしい」「お医者さんと話ができて内容も理解できる通訳者をおいてほしい」などが望まれていた。

多民族社会では通訳サービスが確立されている

次に、言葉の問題について考えてみよう。

世界共通ともいえる外国人診療の課題といえば、患者と医療者との言語の違いによる意思疎通の難しさである。2017年末の在留外国人は256万人で、前年比7.5%増と過去最高であった。

国籍・地域別では、中国が73万人で全体の28.5%を占め、以下、韓国45万人(17.6%)、ベトナム26万人(10.2%)、フィリピン26万人(10.2%)、ブラジル19万人(7.5%)、ネパール8万人(3.1%)、インドネシア5万人(2.0%)の順で、英語圏以外でアジア系の国籍が多い。

医療の場で的確に診断を行うには十分なコミュニケーションが不可欠であるが、このように外国人患者の言語が多様化するなか、医療者と患者の言葉の違いによるコミュニケーション障害をどのように解決できるのだろうか。

医療者と患者のコミュニケーションをサポートする人、すなわち、訓練を受けた専門の医療通訳者が必要であることは間違いない。しかも、医療通訳者にはコミュニケーションのサポートだけではなく、医療者と患者双方の文化的サポート、すなわち文化調整の役割をも求められる。しかし、日本では医療通訳者の国家資格はなく、医療現場で通訳をする者の訓練や研修は義務づけられていない。

医療通訳専門の研修を実施している自治体や団体は限られ、訓練を受けた専門の医療通訳者に、医療機関がアクセスすることは容易ではない。そのため、日本語で意思疎通が難しい患者への対応は、患者が連れてくるアドホック通訳者(医療通訳専門の訓練を受けていない通訳者のこと)を利用して診療せざるをえないのが現状である。

多民族国家であるオーストラリアには法的根拠に裏付けられた通訳制度が確立されていて、税金で通訳者の育成が行われている。アメリカでは医療通訳者の国家資格はないが、英語が不自由な患者に対し、医療機関が無料で医療通訳サービスを提供することが2000年に義務付けられたため、法的根拠をもって誰でも無料で医療通訳サービスが保証されている。

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