外国人も日本人も困る医療現場の深刻な実態 日本は外国人労働者を受け入れても大丈夫か

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外国人労働者が日本の病院を訪れると、得てして対応に困るという。写真は本文とは関係ありません(写真:PIXTA/maroke)  
外国人労働者の受け入れ拡大が議論される中、医療現場における外国人対応が課題になることが予想されている。今後、多くの外国人労働者を受け入れるとしたら、日本の医療現場には何が求められるのか。外国人労働者が多い横浜市を抱える神奈川県で、医療現場での外国人対応に関する制度の構築に尽力してきた西村明夫氏が解説する。

日本は日本人だけで国力を維持し、発展する世界経済についていけるのだろうか。一部には外国人労働者の流入に反対する声があるが、20年後、30年後の将来世代を考えると「ノー」と言わざるをえない。現在でも日本に住んでいる外国人は約256万人(うち永住・定住系の外国人は約143万人)、国際結婚を見ると約2万件(約30組に1組が国際結婚)という状況だ。

そうした中、外国人の健康保険(正確には公的医療保険)の不正利用が取り沙汰されている。「不正」は原因者を特定してたださないといけないし、悪いとは知らずに実行した者にも責任を求める必要がある。ただ、この不正問題を耳にして、「外国人は健康保険を利用できないのに」「健康保険の財源である保険料と税金を外国人は払っていないのに」「外国人は不正に走りやすい」と考えたら、それは3つの点で事実と違っている。

1つ目は、健康保険を不正に利用している「外国人」は日本に住んでいる外国人ではなく、訪日外国人の話である。2つ目は、在住外国人は健康保険に入れるし、否、入る義務があるし、保険料や税金は日本人と同様に払っている。3つ目は、外国人が不正にかかわることがあると、メデイアはことさら「外国人」という冠をつけて報道するが、不正は外国人の専売特許ではない。

外国人患者が困っているのは言葉の問題

国は「日本に有用な外国人は歓迎する」という入国管理方針を堅持している。もしそれを貫くのなら、受け入れ体制は的確に、少なくとも人材獲得競争を展開している各国と肩を並べる程度には講じないといけない。ある著名な外国人研究者は「海外からの招へいを受諾するかどうかのポイントは、医療面と子弟の教育面の受け入れ体制次第だ」と語っていた。

また、国際社会の中で信頼される国になるためにも、多様な人々を受け入れる体制づくりと意識づくりが不可欠だろう。特に医療体制の構築は、命と健康にかかわる基本的な課題である。海外在住の日本人も病気になれば現地の医療機関にお世話になり、欧米であれば日本語通訳サービスが無料で受けられる場合が多い。

では、訪日外国人も在住外国人も安心して受けられる医療体制とはどのようなものだろうか。つまり、日本における多様性や国際性を求めた医療体制とは何か。

医師法では何人に対しても受診を拒否できないし、健康保険は短期滞在者を除いて外国人にも加入義務があるなど、制度上は多様性を担保している。訪日外国人の医療費問題は旅行傷害保険の加入を求める方向になるだろう。

今、外国人患者が困っているのは言葉の問題である。困っているのは外国人患者だけではない。医師も看護師も同じだ。的確なコミュニケーションが取れなければ、症状などがつかみにくく確定診断に時間がかかり、余分な検査をオーダーすることになる。その分、診療費(診療報酬と自己負担分)も余計にかかる。

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