外国人も日本人も困る医療現場の深刻な実態 日本は外国人労働者を受け入れても大丈夫か

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そのため、日本の各地域では、トレーニングを受けた医療通訳者を医療機関に派遣する仕組みが普及しつつある。神奈川県(2002年開始)や愛知県、三重県のように多数の外国人が在住する地域だけでなく、さまざまな地域事情を背景に、全国二十数地域で医療通訳システムが構築されている。

高齢化する中国帰国者の医療支援を契機にスタートした京都市、外国人研究者が集まる国際的な陽電子研究施設の誘致活動を背景にした岩手県奥州市、外国人技能実習生のサポートから始まった新潟県糸魚川市、国際結婚女性の医療支援がきっかけに1990年代に開始された山形県などが、その代表例として挙げられる。

しかも、英語や中国語といったメジャー言語だけでなく、スペイン語、ポルトガル語、タイ語、タガログ語、ベトナム語など少数言語もカバーしつつ、それぞれの地域の複数の病院(神奈川県では50以上)へ医療通訳が派遣されている。

これらの取り組みに対する体系的、客観的な評価データはないが、過去に神奈川県で医療従事者に調査をした結果、約85%の者が「医療通訳システムがないとたいへん困る」と回答していた。患者にとっても医師にとっても、日本全国、外国人の住まい近くの病院で、トレーニングを受けた医療通訳者による通訳サービスを受けられる必要があるだろう。

国は地域と連携するだけでいいのに…

だが、そこに立ちはだかる最大の壁は、医療機関の理解と協力(医療通訳者の受け入れ受諾と費用負担)である。的確なコミュニケーションが確保できなくても、カタコトの日本語や身振り手振り、医師の英語、子どもや素人の通訳で何とかなるという誤った認識が根強く残っているからであろう。

厚生労働省は、訪日外国人と在住外国人が安心・安全に日本の医療機関を受診できるよう、「外国人患者受入れ医療機関認証制度」と「外国人患者受入れ環境整備事業」を進めている。そして「外国人患者受入れ体制が整備された医療機関」が目標の100カ所に達したと評価している。

だが、この政策には3つの問題があると思う。

1つ目は、全国各地域で普及しつつある医療通訳システムの成果を考慮することなく、全く別の方式で進めている点である。地域の医療通訳システムは、多くが数十万円から数百万円といった少額予算で運営され、その財源は自治体によってまかなわれている。

すでに機能している地域の取り組みと連携するだけで面的な広がりのある効率的、効果的な取り組みになるはずなのに、と筆者は思ってしまう。

2つ目は、モデル地域や拠点病院といった数量限定の取り組みである点である。「外国人患者受入れ体制が整備された医療機関」が、外国人が住む地域や住宅の近くでどれだけ整備されているのだろうか。外国人患者受入れ認証医療機関は、東北全県や、在住外国人が多い北関東にないなど、地域的な片寄りも顕著である。

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