公立なのに先進的!未来教育1位の国の秘密 ニュージーランドの教育がすごい理由

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先生が英語ではなくニュージーランド先住民族の言葉、マオリ語で自己紹介を始めたのです。例えば、英語で自己紹介する場合は”My name is……”ですが、マオリ語では”Ko……ahau”と言うそうです。母音を多用するマオリ語は日本語と発音が近いらしく、ローマ字読みでそのまま話せそうです。参加した高校生に配られたレジュメには、英語とマオリ語の語順が書かれていて、しばらく練習するとマオリ語でも簡単な自己紹介ができるようになっていました。

このような内容を教える理由は、ニュージーランドではマオリ語が英語と並ぶ公用語として認められ、学校でマオリ文化が重視されているためです。

ニュージーランドに深く根付くマオリ文化

体験授業をしたチェルシー先生(写真:筆者撮影)

講義をしたチェルシー・ワイアタ・マリー・コラード先生は次のように話します。「ニュージーランドの学校に来ると、マオリ語やマオリ文化に接する機会がたくさんあります。日本の高校生が戸惑わないためには、英会話を練習するだけでなく、留学前にマオリ文化を少しでも知っていてもらうとよいと思います」

チェルシー先生自身、先住民マオリの子孫です。講義の中でもそうした話が出ました。今は教育水準の高いランギトト・カレッジ(13~18歳程度が在籍)で社会、歴史、観光業などを教えています。思春期の子どもたちと信頼関係を築くため、フレンドリーにコミュニケーションを取るように心がけているそうです。

マオリの人々はもともと、東ポリネシアの島々に住んでいて、西暦1200年代に船でやってきてニュージーランドに定住したといわれています。当時、ニュージーランドは緑の森林で覆われており、島独特の生態系が発達していました。例えば体長3.6メートルにもなる「モア」という鳥がいました。チェルシー先生は、ディズニー映画「モアナと伝説の海」にも言及、食料を求めて船で旅をしたヒロイン・モアナは、マオリの祖先である、という認識を示しました。

体験授業に参加した中高生(写真:筆者撮影)

その後、1642年に最初のヨーロッパ人がニュージーランドに到着し、1769年にイングランド人のジェームス・クックが到着すると欧州人が多く移住してくるようになります。

欧州系の白人と先住民の間には緊張関係や争いもありましたが、第二次世界大戦でマオリがニュージーランド軍の一員として活躍したことから、国内での地位が上がったといいます。1987年にマオリ語がニュージーランドの公用語になったことは、多文化共生の基盤を築きました。現在、観光でニュージーランドを訪れる人の多くが、マオリ文化の体験をしています。これは、先住民文化の保護が先住民の人権保障はもちろん、国の経済にも資することを示した事実です。

日本の高校生たちは、チェルシー先生からこうした内容を英語で聞いた後、マオリ語のアルファベットや発音、挨拶を習いました。現在、ニュージーランドの人は日常的にも英語とマオリ語をミックスして使っているそうです。490万人いるニュージーランドの人口のうち、約70%が欧州系。15%がマオリ系、12%がアジア系。少数派とはいえ、かなりの影響力を持ち、共存していることが分かります。

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