公立なのに先進的!未来教育1位の国の秘密 ニュージーランドの教育がすごい理由

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学校だけでなく、国の公式行事にもマオリ文化は欠かせません。東京にあるニュージーランド大使館で9月に開かれた女性参政権125周年を祝うレセプションでは、マオリの装束で歌い、踊る催しがありました。

こうした事実を目にすると、多文化共生がお題目ではなく日常に溶け込んでいる社会の魅力を感じます。確かにニュージーランドに留学するなら、英語準備だけでなく、こうした歴史文化的な背景を知っておくべきといえるでしょう。そしてそれは、ほかの国へ留学する場合も同様です。

STEM分野に占める女子学生比率は世界2位

生徒がノートPCでクイズに答えると結果が大画面に表示される(写真:筆者撮影)

講義を見ていてもう1つ、興味深かったのは、ITの活用です。講義の中では、ニュージーランドに関するクイズ(首都、舞台になった映画など)をやっていました。

先生が大きなスクリーンに問題と選択肢を映し出すと、高校生たちは1人1台あるノートパソコン上で回答をクリック。瞬時に集計されて、大型スクリーンに回答分布が映し出される。その後、正解した人やその時点での得点も見られます。

ここには、コンピュータなしでは回らない社会生活を教室にも持ち込むという発想が見えます。先生たちは、学校で不要なものを紙に印刷すると怒られるそうで、このあたりは今も紙の印刷物が多い日本の学校とかなり様子が違います。

「経済的に余裕のある地域では、親が子どもにパソコンやタブレットを買い与え、それを学校に持ってきます。そうでない地域では学校が子どもにICT端末を提供します」(チェルシー先生)

テクノロジーとクリエイティビティを融合した教育プログラムの導入が進んだ結果、英「エコノミスト」誌による調査「世界各国の未来に向けた教育」(2017年)では、ニュージーランドは調査対象35カ国中、1位になりました。評価されたのは「多分野にまたがるスキル」「創造・分析スキル」「起業家精神スキル」「リーダーシップスキル」「デジタル・技術スキル」「グローバル意識と市民教育」の観点からの総合評価です。

また、注目したいのはニュージーランドが男女平等を重視していること。世界で最初に女性参政権が成立した国であり、最近、ジャシンダ・アーダーン首相が産休を取ったことは記憶に新しいでしょう。加えて、ニュージーランドはSTEMと呼ばれる科学・技術・工学・数学分野に占める女子学生比率が37%と世界で2番目に高いそうです。

最後に重要なのは、ニュージーランド国内には小中高校合わせて2500以上の公立学校があり、95%以上の生徒は公立校に通っているという事実です。公教育の質を高めることは、機会均等につながり、高スキルの大人を増やす……。よく耳にする考え方ではありますが、目の当たりにして納得したのでした。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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