日本人が知らない「ビッグデータ信奉」の限界 データだけでは「因果関係」まで導けない

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破壊は、それまでの出来事を退ける行為だ。シリコンバレーは、これまでに蓄積された知と大胆に袂を分かちたいのである。この「破壊」は、不退転の決意で改革に臨む意欲と過去との決別がなければイノベーションはおぼつかないという一般的な考えが反映されているため、比較的若い世代と結びつきが強い。

なぜシリコンバレーは「若者」を厚遇するか

シリコンバレーでは、未経験が尊ばれる。リスクを取りやすいからだ。マーク・ザッカーバーグは2007年にスタンフォード大学で開催されたイベントで聴衆を前に、「単に若い世代のほうが賢いだけのこと」と、昨今もてはやされている考え方を端的に表現してみせた。

これに呼応するかのように、ベンチャー・キャピタリストのビノッド・コースラは、2011年にインド・バンガロールで開催された技術系イベントで「新たな発想という意味では、45歳を過ぎたら死んだも同然」と言っている。こうした環境では、伝統的な知的生活を否定することは避けて通れないのだ。『ニューヨーカー』誌のジョージ・パッカー記者に、あるアナリストがこんなふうに語っていたという。

「シリコンバレーのエンジニアなら、『エコノミスト』なんて読む気も起こさない」

この態度がはっきりと表れているのは、あらゆるものを数値に置き換える数値化へのこだわりだ。シリコンバレーの若者にとって、知恵や経験の代わりになっているのである。ひと口に数値化と言ってもさまざまなかたちがあるが、その典型が「QS(自己定量化)」なるムーブメントだ。

このムーブメントに乗っかっている人々は、デジタル機器で自分自身の行動を絶えず記録・定量化している。そこからは、医療、教育、政府から私生活に至るまで、米国社会が定量化志向を強めている大きなトレンドも垣間見える。その動きは、「ビッグデータ」という言葉からも伝わってくるはずだ。

ビッグデータの肝は、因果関係ではなく相関関係にある。統計的に有意な関係性を見つけ出すことはできるが、なぜそうなるのかという「理由」は説明できない。データセットが巨大化の一途をたどるなか、統計的に有意な相関関係を誤認するリスクも高まっている。とてつもなく大きな干し草の山に大量の針が混入しているようなことになりかねないのだ。

ビッグデータは、そういう事実を説明せずに情報を提供する。エコノミストでジャーナリストのティム・ハートフォードは、2014年に『フィナンシャルタイムズ』に寄せた記事で次のように述べている。

「何世紀にもわたって統計学者や科学者を悩ませ続けてきた問題は、ビッグデータで解決できない。それは、今、何が起こっているか洞察力を働かせて推測し、現状をよくするためにどのように介入していくべきか見極める必要があるからだ」

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