「高3自死事件」遺族が国と面談を望んだ理由 日本バレーボール協会も異例の対応に動いた

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だが、過去に取材した学校の管理職は「好成績を上げる運動部の顧問には、なかなか対等に話ができない」と漏らしていた。成績のいい部活動は学校にとっての名誉でもあり、それは地域や保護者をも巻き込む。「目指せ!全国大会!」と熱くなる保護者を前に「指導を見直せ」とは言えない。「このくらいは、まあいいか」と甘くなるのではないか。

松本国際に続き、熊本県九州学院高校ラグビー部、全国大会常連の山梨県富士学苑高校女子バスケットボール部と、強豪チームでの監督による暴力事件が続いている。

名古屋経済大学高蔵高校(愛知県名古屋市)の野球部では、元プロ野球選手だった監督(47)が部員に暴力を振るう動画が流出。学校側は「暴力は初めて」と説明したが、テレビの取材で生徒は「ここまで激しいのはなかった」と過去にもあったことを認めるような発言をしている。

殴った、殴らないの話ではなく、怒鳴り続けるなどパワハラ的指導が常態化していなかったか、生徒が自由に主体的に取り組める部活マネジメントができていたのかといった観点で話す学校のトップを筆者は聞いたことがない。

オリンピックを機に暴力の徹底廃止を

多くの学校において、暴力に対する感度は決して高くない。ただ相次ぐ暴力事件を契機に、「ノーモア暴力・パワハラ」の気運が高まりつつある。このところの暴力事件をめぐる報道は、内部通報がきっかけのものが多いが、それが増えているのは、部活における暴力への疑念が増しているからだろう。春から続いたスポーツ界の不祥事によって、スポーツ現場での暴力やパワハラに関する意識が向上した背景がある。

暴力に頼らない指導や運営に精通した競技団体は、今後現れるかどうか。

「競技団体が指導者教育をしっかりやってくれと、スポーツ庁やJOCからも言われている。バレー界は2020を境に、暴力やパワハラと完全に決別する。それを東京五輪のレガシーにできればと思っている」とバレーボール協会の八田専務理事は決意をのぞかせた。

本格的な根絶を打ち出そうとしている同協会が、ひとつの手本になるかもしれない。

スポーツ庁の鈴木大地長官と面会をした新谷聡さん。長官はこの日のシンポジウムで、スポーツの価値などを解説した。「スポーツは子どもの未来をつくるものです」の言葉を聡さんはどう受け止めただろうか(写真:筆者撮影)

聡さんは11月12日、スポーツ庁の鈴木大地長官と面会をした。居住地の仙台にスポーツシンポジウム出席のため訪れることを新聞報道で知り、スポーツ庁へ直接連絡し、面談を取りつけたのだった。

シンポジウム前の短い時間ではあったが、長官に遺書を見せ「息子のような若者を二度と出さないためにも」と、暴力根絶へいっそう尽力することを約束してもらった。

「暴力やパワハラを減らしていくため、あらためてスポーツ界全体でしっかり取り組まなければならないと思っている。周知徹底を図ります」。鈴木長官は筆者ら報道陣の前で、そう決意を示した。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文芸家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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