若者支援の現場の”共通言語”をつくりたい 『若年無業者白書』をクラウドファンディングで作ったわけ(上)
西田:今回の調査は約2300人というミディアムクラス(ネット選挙のデータなどを扱っていると小規模ともいえます)のデータ分析です。育て上げネットさんのサービスを受けている人が対象ですから、その意味で偏っています。支援現場の蓄積データであるという性質上、支援を受けていない人は対象に入っていないという偏りも含んでいます。学術的に重視する普遍性には課題が残りますが、その一方で「現場に蓄積された情報である」という点と、支援現場の直観を検証するという点では有意義です。
国が出している調査は、マクロのトレンドを表していますが、支援を念頭に入れた調査ではなく、概要を把握するための調査で、かつ無業になった理由2位が「その他」と、支援現場では使いづらい。
『若年無業者白書』は、調査のためにアンケートを作ったのではなく、育て上げネットさんが支援のために、カルテとして使用していた項目からデータを起こしている。だからこそ、これまで漠然と「その他」に分類されていたものが細分化できた。また、実際に今、サービスを受けている方のデータ分析なので、支援の現場にもフィードバックできるのではないかと思います。
社会の中から「若者問題」を外さないために
工藤:若年無業者の問題は、絶対数約60万人の「マニアック」な社会課題です。もしかすると、東洋経済オンラインの読者の知人や友人には少ない、つまり肌感覚を持ちづらい問題かもしれません。就職や転職先を懸命に探されている失業者はいても、無業状態の方は少ないのではないでしょうか。短期・中期・長期のどの観点からも大きなイシューでありながらも、自分事としてとらえづらいものです。だからこそ、若年無業者問題を社会から外したくない。外れないように努力を積み上げていかなければなりません。
その意味で、資金調達や大学との協業などを通じて、先行研究を生み出すこと。誰かがやってくれるのを願うのではなく、自らアクションを起こしていくことが重要だと思っています。NPOだからできないのではなく、やろうという意思やビジョンに賛同者が集い、実現していくことが大切で、西田さんはそこに巻き込まれたわけです(笑)。
西田:工藤さんはマニアックな問題だとおっしゃっていましたが、日本社会を考えるうえで、若年無業者問題はある意味で試金石だと思っています。理由は2つあります。
ひとつは、若年無業問題が多くの人にとって「他人事」ではなく、意外に「近い」問題だからです。若年無業者というと、世間では「怠け者」「やる気がない」と思われており、“自己責任”としてとらえられがちです。これは言い換えれば、他人事です。しかし、工藤さんの著書『大卒だって無職になる “はたらく”につまずく若者たち』を読めばわかりますが、決して他人事ではありません。この本には、工藤さんが支援に携わる中で出会った若年無業者の具体的な話が出てきます。そこで描かれるのは、「ちょっとしたボタンの掛け違いで人は無業になり、そこから出られなくなる」という現実です。僕たちを含め、多くの若者は薄氷の上で定職があるにすぎず、自分や親しい人が若年無業になるという可能性は十分考えられます。
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