若者支援の現場の”共通言語”をつくりたい 『若年無業者白書』をクラウドファンディングで作ったわけ(上)

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「これでは不十分」だと言ってほしい

西田 亮介(にしだ りょうすけ) 立命館大学特別招聘准教授・立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授(有期)。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教(有期・研究奨励II)、独立行政法人・中小機構の経営支援情報センターリサーチャー、東洋大学・学習院大学・デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師等を経て現職。 著書『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)、『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』(NHK出版)。共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、共著分担執筆に『大震災後の社会学』(講談社)、『グローバリゼーションと都市変容』(世界思想社)ほか。 専門は情報社会論と公共政策学。情報と政治、ソーシャルビジネス、協働推進、地域産業振興等

西田:もうひとつは、若年無業問題は「日本型社会システム」の欠陥から生まれた現象だからです。工藤さんの冒頭の問題提起とも関係するのですが、若者無業の問題が日本の政策で考えられてこなかったことは、社会システムの歴史的な問題です。日本の現代的な社会福祉概念の出発点はGHQが持ってきた輸入モノで、生活保護や障害者福祉、児童福祉など最低限のものであり、日本経済が右肩上がりの時代は対応できていたものの、現在は対応できていないことは明らかです。若年無業問題を通じて、「日本の社会システムに、どのような問題があり、支援制度にどのような欠陥があるのか」を明らかにしていくことは、日本社会全体を考えることにつながります。

工藤:現在、若年無業者は約63万人で、その出現率は大きく変わってはいません。しかし、若い世代の人口が減少していること、若年支援にNPOのみならず、政府や企業が乗り出している中でその割合が大きく変化しないのは、何かがうまくいっていないことだと思うのです。別の見方をすれば、ここまで広がっているので、より状況が悪くなるのを防いでいる可能性もあります。

特に若年無業問題で残念なのは、若者問題が存在しないことになっていたため「公助」「共助」が効かず、自助だけが存在感を持ってしまった。いわゆる、自己責任論です。社会が個人に問題を矮小化させてしまうとともに、無業の若者や家族もまた自分自身に問題を帰結させてしまっています。だからこそ、現場で支える活動を継続するとともに、若者問題が存在することを提示し、「自助」で片付ける問題ではなく、社会全体で解決する動きをしなければなりません。

とはいえ、若年無業問題については、根っこの部分で自己責任論がある。それに対して、『若年無業者白書』のように、定量データや統計分析の結果を示すことで、問題を社会化していければと思っています。

今後については、『若年無業者白書』を英訳して、世界に発信してみたいと考えています。若年無業の問題は世界的にも大きなイシューとなっていますが、日本の状況を共有することで、また新たなつながりや発展が生まれるかもしれません。特に東アジア圏からの訪問見学なども増えていますので、ひとつのチャレンジとして位置づけています。そして、これは計画があるわけではないですが、「質」的な調査をしていきたいと思っています。

西田:定量的な調査は「はずれ値」を落とすことが多いのです。全体の傾向から違う値は、ともすれば見えにくくなってしまいます。しかし、全体の傾向から外れた個別の値のほうが意味があることも大いにありえます。だから、『若年無業者白書』のような定量的な分析と対になる、個別性を重視した定性的な分析もぜひやっていきたいですね。

工藤:『若年無業者白書』は西田さんがおっしゃるように、育て上げネットの支援を受けた若者約2300人という偏りのある定量分析です。だからこそ、僕らは多くの人が「これが不十分である」ということを、僕らにだけではなく、広く社会に言ってほしいと思っています。小さなNPO一団体で取れるデータには限界があります。むしろ、今回の白書はより正確かつ詳細な調査研究へのきっかけとなることを願っています。

(撮影:今井 康一)

林 智之 ライター
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