若者支援の現場の”共通言語”をつくりたい 『若年無業者白書』をクラウドファンディングで作ったわけ(上)
工藤:僕らは『若年無業者白書』を製作し、そこから支援現場にフィードバックできるエビデンス(根拠となるデータ)をいくばくかでも導き出したかった。たとえば、現在、国が発表している『子ども・若者白書』の調査結果では「無業になった理由」が、1位「病気やケガのため」、2位にいきなり「その他」がきます。さまざまな理由となりうる項目を立てておきながら、「その他」が次に来ているのです。このデータを「現場で使え」といわれても、「その他」では何もわかりません。
ややもすると、「病気やケガ」が理由ならば「医療が若者支援をすべきでは」という短絡的な意見が出て、ミスリードする可能性も出てきてしまう。若者と働く問題は社会的トピックではありますが、一方で、現場での支援については、調査研究や技術開発もなされていない。積み重ねがない分野ですので、すべてのかかわりが手探りのため、「これだ!」という寄る辺がないわけです。このままでは効率的、効果的な支援が何かという根源的な問いに対する“解らしきもの”にすらたどり着かない。また政策提言にしても、「なぜそれが有効かつ社会的な投資になりうるのか」を説明することが難しい。そんな現状を変えるため、自らアクションを起こしたのです。
西田:初めに断っておくと、僕は「若者研究」を専門とする研究者ではありません。ですから、今回は若者研究の知見ではなく、定量分析の「手法」を用いて、データを分析するというかたちで協力しました。僕は社会起業家の研究もしており、工藤さんとは、3~4年前から親しくさせていただいていました。当時から、「現場の有益なデータが利活用されないまま残っているのではないか」――。「エビデンスベースで政策提言するには、現場のデータを定量的にまとめていくのが近道ではないか」という議論もさせていただいていました。それがプロジェクトに携わる発端です。
若者研究者ではないのに、なぜ――と思われるかもしれません。しかし、僕は、若者研究者ではないからこそ、貢献できたことがあると思っています。アカデミズムと現場のそれぞれのニーズは違います。研究者は当然、学術的な主題を明らかにすることに関心がある。その知見は必ずしも「現場で役立つこと」ではありません。だからこそ、研究結果が現場のニーズと懸け離れてしまうことが多いのが実態です。学術には学術の、現場には現場のニーズがあるというわけです。
その一方で、今回は僕が若者研究者ではありませんから、主体的に「明らかにしたいこと」や、この分野で学術的成果に固執したいという強い動機がありません。その意味で「現場のニーズ」に限りなく近いところからスタートできた。そのため、現場のニーズに沿って、データ分析できたことは大きいと思っています。
「データ」で多様なステークホルダーをつなぐ
工藤:現在、若者支援の現場は、数多くのステークホルダーがいます。地域における子ども・若者の育成推進のためのフレームとしては、「矯正、更正保護の現場の心理相談」「雇用の現場の職業的自立・就業支援」「福祉の現場の生活環境改善」「教育の現場の修学支援」「保険、医療の現場の医療及び療養支援」と5つの分野を内閣府が概要図として出しています。たとえば、臨床心理士は「心理」、社会福祉士は「社会資源の接合」、キャリアコンサルタントは「広い意味でのキャリアの問題」を扱っています。こうして見てみると、若者支援は、全世代対応型の専門資格者と民間の“匠”の世界での支援が重なり合っているわけです。若者支援が社会課題として表面化し、政府の“予算”もついたことで一気に全国に広まり、前進しました。その一方で、困惑と混乱の中で試行錯誤し続けた10年だったと言っても過言ではありません。
さらに、多くのステークホルダーがいるため、個々の支援ビジョンや手法、政策の観点からもそれぞれが“バラバラ”の状況です。うまく情報が行き渡らない。たとえば、ひきこもり状態の若者を支援している人と障害を持つ方を支援している人、触法少年という少年院や鑑別所から出てきた若者を支えている人が若者支援の文脈で集ったとき、それぞれが有する暗黙知が形式知に昇華されていないため、共有知となるまでに膨大なコミュニケーションコストがかかるわけです。同一ケースに対しての方針や手法、使う言語までがバラバラなこともあります。
そのときに、今回の『若年無業者白書』のように、定量的なデータをひとつの共通土台として活用できるのではないかと考えました。たとえば「携帯を持っていない人が20%いる」と言うと、「俺の現場は10%」「うちは40%」と議論の遡上に上る。数値が重要ではなく、データを基準にそれぞれの人たちが支援されている若者の共通点や差異が、発見しやすくなるのではないかと思っています。
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