史上最悪規模「カリフォルニア火災」のリアル 現地取材でわかった避難民たちの厳しい生活

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マリブ市近郊の町の公立高校などには合計4つのシェルターが開設され、医療、食糧、衣類、宿泊サービスなどのほかに、心理カウンセリングの専門家がいち早く派遣された。

1000人以上が集まった避難集会でも入り口すぐのカウンターで「カウンセリングが必要な人はいませんか。いたらこちらに来てください」とカウンセラーたちが入り口を通る人々に呼びかけていた。

その横では「FEMA」のロゴがついたジャケットを着た連邦政府の緊急事態管理局の職員たちが、避難民のたちの被害登録をすべく、一人ひとり聴き取り調査をしている。「被害の大きさによって、連邦政府からの補助金の額が決まります。必ず登録してください」と彼らが呼びかけていた。

連邦政府の緊急事態管理局のブースで、被害状況を説明する住民たち(筆者撮影)

トランプ大統領は「カリフォルニア州の森林管理が悪いから、こんな惨事になったんだ」とツイートしたが、避難集会でトランプ氏のツイートの件を口にした住民は、筆者が知るかぎり、誰もいなかった。家を失い、家族や友人が火災でケガをしたりという状況で、それどころではない、という感じだった。

家を失った避難民たちに話を聞くと、彼らの関心は、どれだけ早く自宅の再建活動に着手できるか、という点にあるようだった。

自宅を再建するには、行政からの許可証が必要だが、市議会議員のひとりが「緊急事態でも、現場をしっかり検証しないで、簡単に許可証を出すことはできない」と発言すると、会場中からブーイングの声が飛んだ。「再建の許可証がすぐ発行できないなら、せめて、タイニーハウスやRV型の簡易住宅を自宅敷地内に建てる許可を出してほしい」(前述のバンク氏)。

それほどまでに住み続けたい地区の魅力

火災のリスクの大きいマリブ地区に、それほどまでに住み続けたいという気持ちはどこから来るのか。

「私は過去40年間マリブに住んできたから言えるけど、地域の結束が非常に固くて、近所中が皆顔見知り。だからお互い助け合う土地柄なのね。それを一度味わうと離れがたくなる」とパットさん。

大都会のロサンゼルス近郊に位置しながらも、スモールタウンのような雰囲気が残るのがマリブの良さなのだと彼女は言う。

避難命令が出て数日後の地元紙『マリブ・タイムズ』の一面には「数百の家が失われ、1000人以上が避難したまま」という見出しが躍っていた。さらに同じ日の同新聞の「住宅欄」のページには、8億円から30億円ほどの価格帯の不動産の広告が写真とともに掲載されていた。プライベートビーチや巨大なプールとともに撮影された豪華な邸宅の広告写真だ。

火災の惨状の写真と豪華住宅広告の写真が同じ新聞紙面に掲載されていることが驚きだった。いったい、これらの住宅のうちいくつが焼け残ったのか、消火活動がひととおり終わった今も、まだ不明だ。

長野 美穂 ジャーナリスト

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ながの みほ / Miho Nagano

米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙記者として5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社に勤務した経験もある。

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